English

研究ノート 055 — 2026-09-07

香ばしさと苦味の境界線——胡麻の煎り加減から

香ばしいという言葉と苦いという言葉は、台所ではよく並んで使われる。胡麻を煎る、茶を焙じる、 飯の底を焦がす——強く火を通した食べ物には、香ばしさと苦味がセットで付いてくるように思える。 だが感覚を測る側の資料を見ると、この二つは同じ入り口を通っていない。香ばしさは鼻で嗅ぐ香りの 感覚であり、苦味は舌で受け取る基本味の一つである。まずその分かれ目がどこにあるかを辞書と 官能評価の用語体系で確かめ、次に同じ焙煎という操作の中で香りと苦味がどう動くかを追い、 最後に胡麻の実測がどこまで届いているかを見る。

このページの内容(9 節)
  1. この頁でわかること
  2. 香りと苦味は、別の棚に置かれている
  3. 同じ火から、香りと苦味は別々に動く
  4. 焙煎香には境目がある
  5. 鼻をつまむと分かること
  6. 胡麻の場合
  7. 境界線は、鼻をつまんだところに引かれる
  8. よく問われること
  9. 分かっていないこと
↑

この頁でわかること

香りと苦味は、別の棚に置かれている

清酒の香味を評価するための用語体系は、86の用語を16のクラスに分けている。焦げやカラメルの 香りを束ねる第4クラスには、コード430の「焦臭」という語が置かれ、苦味はチロソールを標準見本 とする第13クラス(コード1310)として、これとは別に立てられている。「焦臭」は香りの区分に属し、 苦味は味の区分に属する。専門家が用語を作る段階で、この二つはすでに別の棚に分けられている。

苦味は清酒の官能評価品質評価用語体系(宇都宮ほか2006)において、独立した基本味クラス『13.苦味』(標準見本チロソール)として位置づけられ、焦げ・カラメル様の香りを表すクラス『4.甘・カラメル様・焦げ』内の語『焦臭』(コード430、香りの区分)とは別クラスの語として扱われているに記録されている支持あり

範囲: 層: 文献。清酒の香味に関する品質評価用語体系(86用語・16クラス)。既存src-utsunomiya-2006-sake-flavor-vocabulary(全文既読)を用いた追加観点。

用語体系は86用語を16クラスに分類。クラス『4.甘・カラメル様・焦げ』には蜂蜜・ドライフルーツ・糖蜜・醤油とともに『焦臭』(コード430)が含まれ、これは第1表・フレーバホイール上で『におい(香り)』側に位置づけられる。一方『13.苦味』(コード1310、定義『苦い』、標準見本チロソール)は『味』側の独立クラスであり、両者は用語体系上まったく別のクラスに属する。
限界: 『焦臭』はあくまで清酒の劣化・焙煎由来の焦げ臭を指す用語であり、『香ばしい』という語自体は用語体系中に見出されない。良い/悪いの価値判断を含む語を排除する方針(本文3(1)ニ)がこの不採用の理由かどうかは本文に明記されておらず、推測にとどまる。
データを表示sensation-bitter —is_documented_in→ "清酒の官能評価品質評価用語体系(宇都宮ほか2006)において、独立した基本味クラス『13.苦味』(標準見本チロソール)として位置づけられ、焦げ・カラメル様の香りを表すクラス『4.甘・カラメル様・焦げ』内の語『焦臭』(コード430、香りの区分)とは別クラスの語として扱われている"
claim: clm-w70b-sake-vocab-burnt-aroma-separate-from-bitter-taste / type: taxonomy / 更新: 2026-09-07

国語辞典が「香ばしい」に与えている語釈も、香りの側だけを向いている。デジタル大辞泉は、 この語を「よい香りがする。多く、食物を煎ったり焼いたりしたときの、好ましい香りにいう」と 定義する。苦味への言及も、焦げの黒さへの言及もない。香ばしいという日本語自体が、最初から 嗅覚の言葉として立てられている。

香ばしいは辞典で「よい香りがする。多く、食物を煎ったり焼いたりしたときの、好ましい香りにいう」(デジタル大辞泉、コトバンク経由)と定義される文脈資料

範囲: 日本語辞典(デジタル大辞泉、コトバンク経由で参照)の語釈。

注記: 語釈は嗅覚の快さ(『好ましい香り』)を述べるにとどまり、苦味・焦げの黒さ・不快さへの言及はない。『香ばしさと苦味の境界』を辞書自体がどこに引いているかは、この語釈だけからは判断できない――辞書が境界に触れていないこと自体を収穫として記録する。

デジタル大辞泉は「香ばしい」を『よい香りがする。多く、食物を煎ったり焼いたりしたときの、好ましい香りにいう』と定義する。
限界: コトバンクは複数辞書を集約表示するアグリゲータであり一次の紙面辞書そのものではない。焦げ・苦味との関係を明示する記述はこの項目にはない。
出典: 香ばしい(デジタル大辞泉、コトバンク経由)(小学館(デジタル大辞泉編集部))・全文確認
データを表示concept-koubashii —is_defined_in_dictionary_as→ "「よい香りがする。多く、食物を煎ったり焼いたりしたときの、好ましい香りにいう」(デジタル大辞泉、コトバンク経由)"
claim: clm-w70b-koubashii-dictionary-definition / type: cultural / 更新: 2026-09-07

同じ火から、香りと苦味は別々に動く

鉄観音烏龍茶を105℃で1時間・3時間・5時間焙煎し、5時間の区にはさらに130℃・1時間の追加焙煎を 重ねた実験では、焙煎時間を 1 時間から 5 時間へ延ばすと色と香気成分は段階的に変わっていったが、訓練されたパネルの苦味の評点だけは動かなかった。香りと色が動く一方で、苦味だけが その場にとどまっている。

鉄観音の知覚苦味を変えなかった処理: 焙煎処理(105℃で1時間・3時間・5時間、および5時間区への追加焙煎として130℃1時間)支持あり

範囲: 層: 食品。鉄観音烏龍茶、資格認定された訓練パネル9名(男性5・女性4、25-48歳)による0-10点評価(苦味・渋味・甘い後味・花香・甘い香り・焙煎香)。

注記: 焙煎時間・温度を上げても苦味評点は安定していた一方、焙煎香関連の化合物や色(L*値)は明確に変化した。焙煎すれば苦味が増すという素朴な想定に反する。

本文に「bitterness was stable with prolonging roasting time」との記述。苦味関連成分のEGCGはBT1(105℃1時間)で55.385±0.237 mg/g、追加焙煎後(AHT、130℃1時間)は52.325±0.886 mg/g(ns の比較対象は BT5 と AHT の間で、BT1 との差ではない)。一方、色差L*値は焙煎時間と有意に相関し(r=-0.953, p<0.001)、焙煎香関連のピラジン類・ピロール類・フラン類はAHTで顕著に増加した。
限界: 焙煎温度は105℃と130℃の2水準のみで中間温度は未検討。パネル9名は専門パネルで消費者評価ではない。
出典: Sensory and chemical characteristics of Tieguanyin oolong tea after roasting(Cao QQ; Fu YQ; Wang JQ; Zhang L; Wang F; Yin JF; Xu YQ, 2021)・全文確認
データを表示ingredient-tieguanyin-infusion —has_perceived_bitterness_unchanged_by→ "焙煎処理(105℃で1時間・3時間・5時間、および5時間区への追加焙煎として130℃1時間)"
claim: clm-w67d-tieguanyin-roast-bitterness-stable / type: sensory / 更新: 2026-09-06

パエリアの調理が進んでソカラットの層ができる過程を、9名の訓練パネルが10cmの尺度で評価した 実験でも、似た分かれ方が見える。加熱が進むほど焙煎香の強さは上がったのに、焦げ臭は白飯の 対照よりむしろ低く抑えられた。この評価の尺度に苦味は含まれておらず、香ばしさが上がることと 苦味が上がることは、そもそも別の軸として測られている。

ソカラットは感覚応答として9名の訓練された官能パネルによる非構造化10cm尺度評価で、パエリアの調理が進みsocarratが形成される段階ほど「roasted(焙煎香)」属性の強度が有意に上昇し、「burnt(焦げ臭)」は白飯対照より低く抑えられた。論文はこれを、socarratが鍋にクラストを形成することで米が焦げつくのを防いでいることを示唆すると考察している。を示す支持あり

範囲: スペイン産米を用いたパエリア調理過程(白飯・パエリアの複数加熱段階)の比較。訓練された官能パネルn=9。

注記: アクリルアミド定量も同論文の主眼の一つだが、この研究所では官能・香気成分の記述のみを採用し、健康影響には触れない。

"attributes such as wet cereal, shellfish, roasted and burnt were evaluated using a non-structural scale of 10 cm." "the roasted aroma was perceived with greater intensity compared to the burnt aroma. This suggests the formation of the socarrat forming a crust in the pan that prevents the rice from burning."
限界: bitter(苦味)はパネルの評価尺度に含まれておらず、この評価はroasted/burntという焙煎・焦げの属性に限定される。
出典: Detection of Aroma Profile in Spanish Rice Paella during Socarrat Formation by Electronic Nose and Sensory Panel(Barea-Ramos, J.D.; Santos, J.P.; Lozano, J.; Rodríguez, M.J.; Montero-Fernández, I.; Martín-Vertedor, D., 2023)・全文確認
データを表示dish-socarrat —has_sensory_response→ "9名の訓練された官能パネルによる非構造化10cm尺度評価で、パエリアの調理が進みsocarratが形成される段階ほど「roasted(焙煎香)」属性の強度が有意に上昇し、「burnt(焦げ臭)」は白飯対照より低く抑えられた。論文はこれを、socarratが鍋にクラストを形成することで米が焦げつくのを防いでいることを示唆すると考察している。"
claim: clm-socarrat-roasted-panel / type: sensory / 更新: 2026-09-02

焙煎香には境目がある

森田式の連続ほうじ茶機で14種の荒茶を焙煎した研究は、強火入れ100℃・15分から深炒り150℃・12分 まで条件を分け、GC-MS分析で緑茶にはなかった香気成分をほうじ茶で86、釜炒り茶で44新たに 見つけている。焙煎の条件を変えるほど、生まれる香気成分の数も変わる。

ほうじ茶の焙煎は次の方法で調理される: 森田式自動連続ほうじ茶機(投入量2kg)を用い、静岡・三重・佐賀産の露天栽培煎茶や覆下栽培煎茶(かぶせ)、玉緑茶など計14種の荒茶・浸出液を試料として、強火入れ100℃・15分、浅炒り130℃・10分、深炒り150℃・12分の各条件で焙煎した。三重・水沢園産の原料荒茶(大下茎・かぶせ茎)はすでに火入れ(80℃・20分)を経ていた。GC/MS分析で緑茶と比べほうじ茶で86化合物、釜炒り茶で44化合物が新たに同定された。支持あり

範囲: 静岡県産露天栽培・三重県産覆下栽培の煎茶2種とその茎茶、佐賀県産の露天および覆下釜炒り茶。

注記: 浸出液抽出法(brewed method)による香気濃縮物調製、GC-MS(HP5972)による化合物同定(標準物質の保持指数とMSスペクトル一致)。

森田式自動連続ほうじ茶機による焙煎条件(強火入れ100℃15分・浅炒130℃10分・深炒150℃12分)と、GC/MSで新規同定した化合物数(ほうじ茶86、釜炒り茶44)を報告。
限界: 産地・栽培法ごとに1バッチのみで反復数の記載はない。
出典: 焙焼,釜炒り操作による茶香気の形成(川上美智子; 山西貞, 1999)・全文確認
データを表示process-hojicha-roasting —is_prepared_by→ "森田式自動連続ほうじ茶機(投入量2kg)を用い、静岡・三重・佐賀産の露天栽培煎茶や覆下栽培煎茶(かぶせ)、玉緑茶など計14種の荒茶・浸出液を試料として、強火入れ100℃・15分、浅炒り130℃・10分、深炒り150℃・12分の各条件で焙煎した。三重・水沢園産の原料荒茶(大下茎・かぶせ茎)はすでに火入れ(80℃・20分)を経ていた。GC/MS分析で緑茶と比べほうじ茶で86化合物、釜炒り茶で44化合物が新たに同定された。"
claim: clm-hojicha-roasting-conditions-kawakami / type: processing / 更新: 2026-09-02

同じ茶葉を130℃・10分で焙煎した浅炒りの試料には、論文中で「好ましい焙煎香」という記述が 付いている。ところが150℃・12分まで焙煎を進めた中炒りの試料には、「苦い香り、焦げた焙煎香」 という記述が付く。この「苦い」は鼻で嗅いだ印象に付いた形容詞で、舌で測った苦味の評点ではない。それでも、香りの記述の中に境目が現れていることに変わりはない。

ほうじ茶の焙煎の感覚特性: 三重県水沢産のおおいしだ茎を150℃・12分で焙煎した中炒り試料は、論文中の香り評価記述で"Bitter aroma, burnt roasted aroma"(苦い香り、焦げた焙煎香)とされた。同じ原料を130℃・10分で焙煎した浅炒り試料は"Preferable roasted aroma"(好ましい焙煎香)と評価され、荒茶(未焙煎)は"Fresh greenish, toasted laver-like"だった。支持あり

範囲: 三重県水沢産おおいしだ茎、Table Iの試料記述。

注記: 著者らによる嗅覚での香り記述(aroma descriptor)であり、口に含んだ際の味覚としての苦味評価ではない。評価人数・尺度の記載はなく、Bitter aromaが指す具体的な香気の質は本文からは特定できない。苦味知覚一般への接続は慎重に扱う。

おおいしだ茎の中炒り(150℃12分)試料の香り記述が"Bitter aroma, burnt roasted aroma"、浅炒り(130℃10分)は"Preferable roasted aroma"。
限界: 評価人数・評価尺度の記載がなく、"Bitter aroma"が指す感覚的性質の詳細は不明。
出典: 焙焼,釜炒り操作による茶香気の形成(川上美智子; 山西貞, 1999)・全文確認
データを表示process-hojicha-roasting —has_sensory_attribute→ "三重県水沢産のおおいしだ茎を150℃・12分で焙煎した中炒り試料は、論文中の香り評価記述で"Bitter aroma, burnt roasted aroma"(苦い香り、焦げた焙煎香)とされた。同じ原料を130℃・10分で焙煎した浅炒り試料は"Preferable roasted aroma"(好ましい焙煎香)と評価され、荒茶(未焙煎)は"Fresh greenish, toasted laver-like"だった。"
claim: clm-hojicha-bitter-aroma-descriptor / type: sensory / 更新: 2026-09-02

市販の麦茶11商品を、香りと味を合わせた28語のフレーバーホイールで評価した研究(要旨の範囲)では、試料は 5つのクラスターに分かれた。その両端にあったのは、甘い香りと甘味が強いタイプと、苦い香りと 苦味が強いタイプである。香りの評価語と苦味の評点が、同じ試料の上で対応して動いている。

麦茶を特徴づける感覚テーマ: 甘い香り・甘味が強いタイプから、苦い香り・苦味が強いタイプまでの5クラスター支持あり

範囲: 層: 食品。市販麦茶11商品から調製した20種の抽出液。社内選抜の訓練パネル10名が、香り28語・香りの総合的な強さ・味4語(甘み・苦み・コク・キレ)の麦茶フレーバーホイールを用い、0〜4の5段階で評価。

注記: 全文で確認(2026-09-25)。5クラスターには、甘い香りや甘みの強いものと、コーヒー・カカオ・焦げなどの苦い香りや苦みの強いものが含まれた。苦い香りと定義された焦げ・カカオは味の用語「苦み」と同じ表現用語クラスターに入り、香りの記述語と苦みの評点が同じ試料で対応した例として記録する。

市販麦茶11商品から調製した20種の抽出液は、風味の特徴により5つのクラスターに分けられた。焼きいも・綿菓子・ビスケットなどの甘い香りや甘みの強いものと、コーヒー・カカオ・焦げなどの苦い香りや苦みの強いものなどがあった。苦い香りと定義された焦げやカカオは、味の用語「苦み」と同じ表現用語クラスターに入った。
限界: パネルは製造元の社内選抜10名。好ましい香りの研究のため、否定的な香りの用語は用語の段階で除いている。クラスターと焙煎度・製法の対応は論文の中で個別に検討されていない。
出典: フレーバーホイールとGC-Oを用いた麦茶の香り評価(後藤優佳; 三尾建斗; 松岡翼; 出江萌絵; 鮎澤信昌; 時友裕紀子, 2019)・全文確認
データを表示ingredient-mugicha —has_defining_sensory_theme→ "甘い香り・甘味が強いタイプから、苦い香り・苦味が強いタイプまでの5クラスター"
claim: clm-w70b-mugicha-aroma-bitterness-clusters / type: sensory / 更新: 2026-09-25

コーヒーや茶だけでなく、木の実でも焙煎温度の効果は似た形で現れる。スペイン産のアーモンドを 150℃から190℃まで振った実験では、190℃の試料は色が濃く焦げた風味を示し、150℃の試料は 焙煎が浅すぎた。170℃・10分の焙煎がもっとも高い好ましさを示した条件で(抄録の範囲での報告)、消費者の好みは 焙煎香やナッツらしさの強さと正の関係にあった一方、苦味や焦げた風味の強さとは負の関係に あった。香ばしさが好まれる範囲と、苦味が増える範囲は、同じ温度軸の上でも重ならない。

アーモンドの知覚苦味に影響する要因: 焙煎温度(150〜190℃)予備的

範囲: 層: 食品。regulated deficit irrigation下で栽培したスペイン産'Vairo'アーモンドを対流式オーブンで焙煎。35種の揮発性成分(GC分析)、記述的官能プロファイル、消費者嗜好試験。

注記: 検索エンジン・Europe PMC経由のアブストラクト引用による(本文はWiley・PubMedとも403/障壁で未確認)。190℃焙煎は色が濃く焦げ様の風味(burnt notes)を呈し、150℃は焙煎不足(under-roasted)とされ、170℃・10分が最適条件と結論づけられた。消費者の総合的な好ましさは特定の揮発性成分・香ばしい/ナッツ様の官能属性とは正の相関を示した一方、ピラジン類・苦味・渋味・木質様・焦げ風味とは負の相関を示したと報告されている。統計値(相関係数・p値)は未確認。コーヒー以外の焙煎度系列としてナッツ(アーモンド)の例。

引用: “Almonds roasted at 190°C presented intense color and burnt notes, while almonds roasted at 150°C were under-roasted.” “consumers overall liking was positively linked to specific volatiles (alkanes, alcohols, aldehydes, and furans) and sensory attributes (sweetness, roasted, almond ID, nutty, hardness, and crispiness), but negatively correlated with pyrazines, bitterness, astringency, woody, and burnt flavor notes.” “roasting at 170°C for 10 min in a convective oven were the optimum conditions.”
限界: 検索エンジン・Europe PMC経由の引用に基づき、原論文本文・統計量(相関係数・p値)・パネル人数は未確認。
出典: Optimization of roasting conditions in hydroSOStainable almonds using volatile and descriptive sensory profiles and consumer acceptance(Lipan L; Cano-Lamadrid M; Vazquez-Araujo L; Lyczko J; Moriana A; Hernandez F; Garcia-Garcia E; Carbonell-Barrachina AA, 2020)・抄録確認
データを表示ingredient-almond —has_perceived_bitterness_affected_by→ "焙煎温度(150〜190℃)"
claim: clm-w70b-almond-roasting-bitterness-burnt-liking / type: sensory / 更新: 2026-09-07

鼻をつまむと分かること

ここまでは焙煎という工程の話だったが、香りと苦味の関係は、鼻をつまむ実験でも直接確かめ られている。ココア飲料にココアの風味料を、鼻をつままずに(嗅覚がある状態で)加えると、苦味は 強まった。同じ実験の別の条件、カフェインで苦くしたミルク飲料にバニラの風味料を加えると、 甘味は有意には増えなかったのに、苦味のほうは意外にも強まった。香りを足すという同じ操作が、 狙った甘さではなく苦味の方を動かしている。

ココアパウダーの知覚苦味に影響する要因: 鼻栓なし(嗅覚あり)でのココア風味料の添加(ココア飲料)。一方、カフェインで苦くしたミルク飲料ではバニラ風味料が甘味を有意に増やさず、意外にも苦味を強めた予備的

範囲: 層: 溶液。実験1はインスタントココアの飲料にココア風味料とバニラ風味料、実験2はカフェインで苦くしたミルク飲料にバニラ風味料を添加し、鼻栓の有無で官能プロファイリングを比較。

注記: 香りと味の一致(ココア香→苦味、バニラ香→甘味)どおりに動いた例と、一致に反して動いた例(バニラ香がミルク飲料の苦味を強めた)が同じ資料にある。抄録の範囲。

抄録の逐語: “Without noseclip, olfactory/taste interaction in the cocoa beverage led to an enhancement of bitterness induced by the cocoa flavouring and an increase in sweetness from the vanilla flavouring. On the contrary, in the caffeinated milk, the addition of vanilla flavouring did not significantly increase sweetness, but unexpectedly enhanced bitterness.”
限界: アブストラクトの確認にとどまり、本文の統計値・パネル人数・尺度の詳細は未確認。 抄録止まり。風味料の添加水準・人数は抄録に無い。
出典: Modulation of perceived taste by olfaction in familiar and unfamiliar beverages(Labbe D; Damevin L; Vaccher C; Morgenegg C; Martin N, 2006)・抄録確認
データを表示ingredient-cocoa-powder —has_perceived_bitterness_affected_by→ "鼻栓なし(嗅覚あり)でのココア風味料の添加(ココア飲料)。一方、カフェインで苦くしたミルク飲料ではバニラ風味料が甘味を有意に増やさず、意外にも苦味を強めた"
claim: clm-w70b-cocoa-beverage-aroma-enhances-bitterness / type: sensory / 更新: 2026-09-07

逆に香りが苦味を弱める例もある。グレープフルーツ風味のモデル飲料にアロマを加えた実験では、 アロマの濃度を2.5 mg/kgから10 mg/kgへ増やすと、10点尺度で測った苦味の評点は4.77から4.27へ 下がった。香りを強めるほど苦味が弱まっている。ココアやバニラの例とは逆向きである。

グレープフルーツジュースの知覚苦味を抑えるもの: 高濃度のアロマ添加(カリオフィレン・シトラール・ヌートカトン・アルデヒドC8-C10のブレンド、10 mg/kg)支持あり

範囲: 層: 溶液。Gousら(2019)と同一のグレープフルーツ様モデル飲料。アロマを低(2.5 mg/kg)・高(10 mg/kg)の2水準、ナリンギン濃度(苦味)を複数水準で組んだ実験計画。訓練パネル16名による10点強度尺度の記述的分析。

本文の逐語: “bitter flavor and bitter aftertaste were notably less intense in the high aroma samples, compared to the low aroma samples, but only significantly so for the medium and high bitter level beverages.” Table 3 のアロマ主効果(他の要因で平均): 苦味評点は低アロマ(2.5 mg/kg)4.77、高アロマ(10 mg/kg)4.27(10 点強度尺度、有意差あり)。
限界: モデル溶液であり実飲料への外挿は要検証。アロマは単一化合物ではなく複数化合物のブレンド。柑橘系アロマであり焙煎香ではない。 アロマ×苦味水準の交互作用のセル平均は補足表にあり、本文からは主効果しか読めない。
データを表示ingredient-grapefruit-juice —has_perceived_bitterness_suppressed_by→ "高濃度のアロマ添加(カリオフィレン・シトラール・ヌートカトン・アルデヒドC8-C10のブレンド、10 mg/kg)"
claim: clm-w70b-grapefruit-aroma-suppresses-bitterness / type: sensory / 更新: 2026-09-07

香りは苦味を強めることもあれば弱めることもあり、どちらに動くかはあらかじめ決まっていない。 焙煎という操作の中で香ばしさと苦味が別々に動くのも、成分の量がたまたまそうなっているから だけでなく、香りと味という感覚の受け取り方自体が、互いを一方向にだけ動かす関係にないから でもある。

胡麻の場合

胡麻はこの境界線を、まだ実測で確かめきれていない食材である。白ごまを電気オーブンで170℃・ 200℃・230℃、1分から20分まで焙煎した研究は、遊離糖と遊離アミノ酸の量を追っている。遊離アミノ酸の総量は、170℃・20分の焙煎では未焙煎のときの23%まで、230℃・10分では44%まで、条件は違えどいずれも大きく減り、スクロースを主体とする遊離糖は230℃・10分でほぼ消えている。著者はこれらの 成分が、甘味を中心に酸味や苦味とともに呈味に寄与すると考えている。

ごまの焙煎は苦味に寄与しうる文脈資料

範囲: 層: 食品。1994年産中国産あらい白ごま(かどや製油)を電気オーブンで170/200/230℃、1〜20分焙煎(12条件)。呈味成分の遊離糖(スクロース主体)・遊離アミノ酸(グルタミン酸・アスパラギン酸・アラニン等主体)をHPLC・高速アミノ酸分析計で定量。

注記: 焙煎温度・時間の上昇に伴い遊離アミノ酸総量・遊離糖量は一貫して減少した(例: 遊離アミノ酸総量は170℃20分で未焙煎時の23%、230℃10分で44%に減少。遊離糖(スクロース主体)は230℃10分でほぼ消失し残存率0.2%)。著者らはこれらの呈味成分が『甘味を中心に、酸味あるいは苦味とともに呈味に寄与している』と考察しているが、苦味は独立した官能評点としては測定されていない(5段階官能評価は色・形・香り・味・総合の項目)。焙煎ごま自体の苦味を直接測定した資料は、この収集の範囲では見つからなかった。

文脈: 原文: 『これらが甘味を中心に,酸味あるいは苦味とともに呈味に寄与していると考えられた。』遊離アミノ酸総量(Table 7)は未焙煎 27.92 mg/100g に対し 170℃20 分で 6.37 mg/100g(約 23%)、230℃10 分で 12.30 mg/100g(約 44%)。遊離糖(スクロース主体、未焙煎 1.40%)は 230℃10 分で痕跡量まで減少。
限界: 苦味は独立した官能評点として測定されていない(考察部の一般的言及)。官能検査のパネル人数の記載は確認できなかった。
データを表示process-sesame-roasting —can_contribute_to→ sensation-bitter
claim: clm-w70b-sesame-roasting-sugars-aminoacids-bitterness-discussion / type: composition / 更新: 2026-10-06

ただしこの研究で苦味は、独立した官能評点としては測られていない。煎りごまについて、香りの記述と苦味の評点を同じ試料で取った研究は、この研究所が探した範囲では見つからなかった。胡麻の香ばしさと苦味が どこで分かれるかは、化合物の量からの推測にとどまっている。

境界線は、鼻をつまんだところに引かれる

ここまで見てきた資料をまとめると、香ばしさと苦味の境界線は、成分の間にあるのではなく、鼻を つまんだときに残るものと消えるものの間にある。鼻をつまんで消えるのが香ばしさで、鼻をつまん でも残るのが苦味である。同じ胡麻を使って、この境目を家で確かめることもできる。同じ袋の胡麻を 浅く・中くらいに・深く、3段階に煎り分け、それぞれを鼻をつまんだ状態とつままない状態で食べ 比べ、苦味の強さを同じ言葉か同じ数字で書き残す。鼻をつまんでも変わらずに残る苦さがあれば、 それは香りではなく味の側にある苦味である。

よく問われること

香ばしさと苦味は同じ感覚なのか

清酒の官能評価用語体系では、この二つは別の棚に置かれている。苦味は基本味の独立したクラスとして扱われ、標準見本にはチロソールが使われる。一方、焦げ臭のような香ばしさに関わる語は、香りの側のクラスに分類されている。日本語辞典の語釈でも、「香ばしい」は好ましい香りを指す語として説明され、苦味との関係を明示する記述はない。

焙煎を強くすると苦味も香ばしさも一緒に強くなるのか

そうとは限らない。鉄観音烏龍茶を105℃で1時間・3時間・5時間焙煎した実験では、焙煎時間を延ばしても苦味は安定していたと報告されている。ほうじ茶の焙煎実験では、同じかぶせ栽培の茎茶でも、130℃10分の浅炒りでは「好ましい焙煎香」、150℃12分の中炒りでは「苦い香り、焦げた焙煎香」と評価が変わったと記録されている。パエリアの焦げ目(ソカラット)を調べた研究では、調理が進むほど焙煎香の強度が上がる一方、焦げ臭は白飯対照より低く抑えられたが、この評価には苦味の尺度自体が含まれていない。焙煎の強さと苦味・香ばしさの動き方は、食材や条件によって異なっている。

香りを感じないと苦味の感じ方は変わるのか

変わるという報告と、逆方向に変わるという報告の両方がある。鼻をつまんでいない状態でココア風味料を加えたココア飲料の実験では、苦味が増したと報告されている。一方、カフェインで苦くしたミルク飲料にバニラ風味料を加えた実験では、甘味を有意に増やさず、意外にも苦味を強めたと報告されている。柑橘系の香りを高濃度で加えたモデル飲料の実験では、逆に苦味とその後味が弱まったという報告もある。香りが苦味を強めるか弱めるかは、香りの種類や飲料によって違う結果が出ている。

分かっていないこと

関連: 香ばしい /苦味 /ごまの焙煎 /鉄観音 /こげ苦い /研究ノート036: 焙煎は苦味を作り、深煎りは苦味を変える /研究ノート045: バター焙煎と南洋コピ——苦味を包む焙煎

この頁の引用のしかた

青木大(NIGAMI LAB)(2026). 香ばしさと苦味の境界線——胡麻の煎り加減から. https://nigamilab.com/notes/roast-aroma-bitterness-boundary/

主張ごとの固定リンクは各カードの #clm-… です。データは CC BY 4.0、配布は データを使う。 データセットの DOI: 10.5281/zenodo.22739101