研究ノート 036 — 2026-09-04
焙煎は苦味を作り、深煎りは苦味を変える
生豆も生葉も、焙煎の前はまだ今の味をしていません。コーヒーの焙煎やほうじ茶の焙じは、素材に熱を加えて別の物質の集まりに作り替える工程です。ではその工程は、苦味に何をしているのか。資料をたどると、答えは「深く煎るほど苦くなる」という一文では収まりません。焙煎度をどう呼ぶかにさえ共通の物差しがなく、深煎りで増えるのは苦味の量だけでなく、苦味を運ぶ成分の顔ぶれそのものです。
このページの内容(10 節)
この頁でわかること
- 焙煎度の呼び名(ライトローストからイタリアンローストまで)には業界共通の基準がないと、複数の資料で指摘されている。
- 訓練された評価者による苦味の官能評点は、浅煎りから深煎りに進むほど有意に上がることが一つの研究で示されている。
- 深煎りが苦味を強める一方で、クロロゲン酸は減りカフェイン酸が増えるという成分の入れ替わりも複数の資料で確かめられている。
- 浅煎りへ転換する動きが消費者の苦味への期待まで書き換えているかは、まだ確かめられていない。
焙煎度を呼ぶ言葉に、共通の物差しがない
全日本コーヒー協会は、ライトローストからイタリアンローストまで8段階の焙煎度用語を掲げ、浅煎りほど酸味が強く深煎りほど苦味を感じるという一般則を添えています。
範囲: 全日本コーヒー協会公式サイトのコラム記事
データを表示
process-coffee-roasting —has_standardized_vocabulary_entry_in→ "全日本コーヒー協会公式サイト「知る・楽しむ」欄が掲載する8段階の焙煎度用語 ― ライトロースト・シナモンロースト・ミディアムロースト・ハイロースト・シティロースト・フルシティロースト・フレンチロースト・イタリアンロースト。"ところが業界の側からは、この種の名前づけに普遍的な合意はなく、ある焙煎人の「ライトロースト」が別の焙煎人の「ダークロースト」より暗い場合すらある、という指摘が上がっています。
範囲: SCA・UC Davis Coffee Center関係者・業界紙による焙煎度呼称についての問題提起
注記: 査読誌論文(Anokye-Bempahほか2025)とSCA公式記事・業界紙記事の複数が独立に同じ問題意識を述べている。この事実は「地域名のついた焙煎度呼称が実際にその地域の慣行を一意に指す」という前提そのものに疑問を投げかける。
データを表示
process-coffee-roasting —has_unresolved_property→ "焙煎業界には「light roast」「medium roast」「dark roast」が何を意味するかについて普遍的に合意された基準はなく、ある焙煎人の「light roast」が別の焙煎人の「dark roast」より暗い場合すらあるという。SCA自身も、French・Italian・Full Cityのような地域名を含む用語は「too arcane or flexible to be meaningful(意味を持つには専門的すぎる、または融通が利きすぎる)」場合があると述べている。"SCA(Specialty Coffee Association)が公式に頒布するカラーディスクキットは、この呼び名のずれを物差しで揃えようとする道具のひとつです。焙煎度を語ること自体が、まだ動いている作業だと分かります。
範囲: SCA公式ストアの商品説明
注記: SCAが自ら頒布する視覚参照ツールの公式説明。付属マニュアルはCarl Staub著。学術的な焙煎度定義ではなく、焙煎人と顧客が焙煎度について一致した認識を持つための業界の合意形成ツールという位置づけ。
データを表示
process-coffee-roasting —is_classified_by→ "SCA(Specialty Coffee Association)が公式に頒布する「Agtron Roast Color Kit」。白色ビニールケースに収めた8枚のカラーディスクから成り、番号は10%刻みで「Very Light」(タイル#95)から「Very Dark」(タイル#25)まで並ぶ。"深煎りほど苦味の評点は上がる、という報告
SCA公式のセンサリー教本は、酸味は浅煎りで、苦味は深煎りで優勢になると述べ、しかもカフェインの量は焙煎が進むほど減っていくと付け加えています。苦味が焙煎で増えるのに、カフェインという成分そのものはむしろ目減りする——この工程は単純な足し算ではありません。
範囲: SCA公式『Coffee Sensory and Cupping Handbook』(2021)第7章、コーヒーの味覚化学
注記: 原文: "Sourness is preponderant in light roasts and bitterness in dark roasts." "bitterness actually increases with the roast level"。カフェインは苦味成分の一部に過ぎず、焙煎で減少するにもかかわらず苦味は増すと明記("caffeine ... only accounts for a small percentage of coffee's bitterness")。
データを表示
process-coffee-roasting —increases→ sensation-bitter実測でも同じ向きの結果が記録されています。訓練された評価者による官能評点は、浅煎りから深煎りへと焙煎が進むにつれて有意に上がり、しかも同じ焙煎度でも抽出条件(超高圧処理か慣行のコールドブリューか)によって評点の水準そのものが動きました。焙煎度と抽出条件は、別々に苦味を動かす二つのつまみです。
範囲: エチオピア産アラビカ豆、超高圧処理コールドブリューおよび慣行コールドブリューの比較
注記: Agtron色価73(浅煎り)→62(中煎り)→53(深煎り)と焙煎度を深くするにつれて、苦味評点が有意に増加した(超高圧処理: 2.00±0.10→3.35±0.30→5.50±0.40、慣行: 3.00±0.28→4.30±0.42→6.50±0.42、いずれもp<0.05)。焙煎が深いほど苦味が強いという関係を、ヒト官能パネルで統計的有意差とともに直接示した学術資料。抽出法(超高圧・慣行の2条件)によらず同じ方向の傾向が確認された。
データを表示
process-coffee-roasting —can_change→ "苦味の官能評点(訓練された評価者12名・Qアラビカグレーダー資格保持者による10点満点評価)"飲んでいる時間の中身も焙煎度で変わります。中煎りでは苦味と焙煎香が、深煎りでは苦味と焦げ香が、それぞれ時間帯の中で優勢な感覚として記録されました。同じ「苦味」でも、隣にどの香りが立つかが違います。
範囲: 中煎りと深煎りArabicaのTDS比較
注記: 中煎りは苦味と焙煎香、深煎りは苦味と焦げ香が優勢。TDSは強度曲線ではない。
データを表示
process-coffee-roasting —can_change→ "飲用中に優勢となる苦味・焙煎香・焦げ香の時間的構成"焙煎は成分を作り替える
北タイのドイチャン産アラビカでは、焙煎度を上げるほどクロロゲン酸の含量が減り、その分解物であるカフェイン酸の含量が増えることが確かめられています。
範囲: 浅煎り(180°C)・中煎り(200-220°C)・深煎り(230°C)の比較、Folin-Ciocalteu法による総フェノール定量とUPLCによるクロロゲン酸・カフェイン酸定量
注記: 明度L*値はクロロゲン酸含量と正相関(r=+0.9101)、カフェイン酸含量と負相関(r=-0.9360)。単一農家産の1ロットのみでヒト官能パネルは実施していない。
データを表示
process-coffee-roasting —can_change→ compound-chlorogenic-acid別の産地・別の分析法によるタイ北部アラビカの比較でも、生豆に比べ焙煎豆でクロロゲン酸が減り、逆にカフェインは焙煎豆のほうが多いという値が記録されました。焙煎は成分を一様に減らす工程ではありません。
範囲: UV-Vis分光光度法(330・272nm、70%エタノール抽出)による定量、標準検量線との比較
注記: หนองน้ำดำ村は必ずしもドイトゥン/ドイチャーンと同一産地ではないが、北タイの王室プロジェクト運営下アラビカという文脈で本クラスタに接続する。要旨のみ確認(全文PDFは画像化され抽出不可)。
データを表示
compound-chlorogenic-acid —has_measured_content_in→ ingredient-coffee-brew同じドイチャン産の研究は、焙煎度が上がるほどフルフリルアルコールという香気成分の含量が動くことも記録し、これを焦げた・焙煎された匂いが苦味として感じられる文脈と結びつけています。ただしこの研究自体は苦味の官能パネルを実施していません。
範囲: ドイチャーン産アラビカの揮発性成分分析(HS-SPME-GC/MS、浅煎り・中煎り・深煎り比較)
注記: 論文本文は、フルフリルアルコール含量の焙煎度による変化を、メイラード反応による『焦げた・ロースト香が苦味として知覚される(perceived as a bitter taste)』という記述と結び付けている。ただしこの記述は他文献を踏まえた考察であり、本研究独自のヒト官能測定ではないため contextual とする。
データを表示
process-coffee-roasting —is_associated_with→ sensation-bitterコーヒーの苦味には、カフェイン以外にも焙煎そのものが生み出す化合物群が寄与すると記録されています。苦味の主役の一部は、生豆の中にではなく、焙煎という工程の中で立ち上がります。
範囲: ヒト官能・受容体アッセイ・定量化学の複数系統
注記: 「コーヒーの苦味=カフェイン」という通念への反例群。寄与率の定量は全文未確認のため未記載。
データを表示
ingredient-coffee-brew —has_bitter_contributors_other_than→ compound-caffeineほうじ茶でも、成分は消えるのでなく入れ替わる
高知県の茶業試験場の記録では、カテキン類の合計量は焙煎程度を深めるほどどの茶期でも減りました。ただし個別のカテキンの中には、荒茶から浅炒りにかけていったん増え、そこから焙煎を深めると減る、という山型の動きを見せるものもありました。減少は一様ではありません。
範囲: 高知県農業技術センター茶業試験場、蒸し時間50秒の一番茶・刈番茶・二番茶荒茶。自動連続式ほうじ茶機による2回焙煎(1回目排気温90℃、2回目排気温100℃でドラム回転数を茶期・焙煎程度ごとに調整)。
注記: HPLC(日本分光製X-LCシステム)による直接定量。試料は各条件1点のみで反復数の記載はない。
データを表示
process-hojicha-roasting —reduces→ compound-catechinsアミノ酸はさらに急な動きを見せます。焙煎によって全体量が大きく減るだけでなく、残るアミノ酸の種類そのものが絞られ、深く炒った試料では数種類だけが残りました。
範囲: 高知県農業技術センター茶業試験場、上記と同一の一番茶・刈番茶・二番茶試料。
注記: 報告書の備考欄はアルギニン・ロイシン・リシン・γ-アミノ酪酸を「苦味」呈味に分類しているが、これはアミノ酸単体の一般的な呈味分類であり、ほうじ茶自体の官能的苦味を測定したものではない。苦味知覚への接続は未確認。
データを表示
process-hojicha-roasting —has_composition→ "アミノ酸全体量(茶液100ml当たりmg)は、一番茶で荒茶33.52→浅炒4.10→中炒3.90→深炒3.10、刈番茶で15.32→2.77→2.38→2.32、二番茶で4.10→2.87→2.74→1.97と焙煎により急激に減少した。荒茶に含まれるアミノ酸の種類は一番茶・刈番茶で11種類、二番茶で8種類だったが、一番茶浅炒りではテアニン・アスパラギン酸・グルタミン酸・アルギニンなど8種類が残り、刈番茶・二番茶の中炒り・深炒りではγ-アミノ酪酸・グルタミン酸・セリンの3種類のみが残った。中でもγ-アミノ酪酸がアミノ酸全体の約70%を占めた。"一方で、荒茶には無かった香気成分が焙煎後にだけ検出される例も記録されています。焙煎は成分を減らすだけでなく、それまで存在しなかったものを新たに生む工程でもあります。
範囲: 高知県農業技術センター茶業試験場、GCMSによる香気成分分析(連続水蒸気蒸留法で抽出)。
注記: 図(レーダーチャート)による報告で数値表・反復数の記載はなく、統計的検定も示されていない。
データを表示
process-hojicha-roasting —can_generate→ "焙煎香の香気成分である2-ethyl-3,5-dimethyl Pyrazine と Tetra methyl Pyrazine は荒茶からは検出されなかったが、焙煎することで検出された(二番茶のTetra methyl Pyrazineを除く)。両成分量は焙煎程度別では一番茶・刈番茶は焙煎が浅いほど多く、二番茶は焙煎程度による差がなかった。茶期別では一番茶が最も多く、次いで刈番茶、二番茶は少なかった。"同じ原料でも焙煎の深さで香りの記述そのものが変わりました。ある試料は中炒りで「苦い香り、焦げた焙煎香」と記述され、同じ原料をより浅く炒った試料は「好ましい焙煎香」と記述されています。
範囲: 三重県水沢産おおいしだ茎、Table Iの試料記述。
注記: 著者らによる嗅覚での香り記述(aroma descriptor)であり、口に含んだ際の味覚としての苦味評価ではない。評価人数・尺度の記載はなく、Bitter aromaが指す具体的な香気の質は本文からは特定できない。苦味知覚一般への接続は慎重に扱う。
データを表示
process-hojicha-roasting —has_sensory_attribute→ "三重県水沢産のおおいしだ茎を150℃・12分で焙煎した中炒り試料は、論文中の香り評価記述で"Bitter aroma, burnt roasted aroma"(苦い香り、焦げた焙煎香)とされた。同じ原料を130℃・10分で焙煎した浅炒り試料は"Preferable roasted aroma"(好ましい焙煎香)と評価され、荒茶(未焙煎)は"Fresh greenish, toasted laver-like"だった。"そして焙煎の「深さ」だけでなく「方法」も苦味の読み値を動かします。同じ生葉のバッチを炭火・電気・ドラムのそれぞれで焙煎した黄茶の比較では、電子舌が示す苦味の出力値は炭火焙煎が他の二法より高くなりました。焙煎度を揃えても、熱の伝え方が違えば苦味の読み値は変わります。
範囲: 中国産大葉黄茶、単一生葉バッチからの3焙煎法比較。
注記: 電子舌の出力値は無次元のセンサー応答であり、ヒトの官能評価や日本の緑茶・ほうじ茶への一般化はしない。炭火焙煎で苦味・渋味が和らぐという通俗的な語りとは逆に、この電子舌測定では炭火焙煎が3法の中で最も高い苦味出力値を示した点は特筆に値する。
データを表示
process-charcoal-roasting —has_sensory_response→ "同一生葉バッチ(2023年6月20日採取)から作った大葉黄茶を、炭火焙煎(CR、焙煎かご表面温度145±5℃・葉温度125±10℃)・電気焙煎(ER、乾燥機温度145℃・葉温度125±5℃)・ドラム焙煎(DR、ドラム内壁温度145℃・葉温度90±5℃)のいずれも95分以上の条件で処理し、電子舌(e-tongue)で味を測定した。苦味の出力値はCR 3.10±0.12、ER 2.54±0.17、DR 2.32±0.23で、CRが他の2法より有意に高かった(p=0.05水準、CRのみ他と異なる統計記号)。渋味の出力値はDR 13.07±0.24が最も高く、次いでCR 10.43±0.06、ER 9.61±0.14の順で、いずれも互いに有意差があった。"カフェインは焙煎で減るのに、苦味は増える
前段のSCA教本が示した通り、コーヒーの苦味は焙煎とともに増える一方でカフェイン量は減っていきます。ほうじ茶の記録でも、浅炒りではカフェイン量の減少はほとんど見られなかったのに対し、深炒りでは6〜13%減少しました。焙煎という工程は、苦味の主役の座をカフェインに割り当て続けてはいません。
範囲: 高知県農業技術センター茶業試験場、2014年、一番茶・刈番茶の荒茶を用いた浅炒り・深炒りほうじ茶(自動連続式ほうじ茶機による2回焙煎)。
注記: HPLC(Shimadzu製)による直接定量。
データを表示
process-hojicha-roasting —reduces→ compound-caffeine浅く煎るという選択
深煎りで苦味を強めるのとは逆の方向に踏み出した動きもあります。SCA公式の教本は、苦味の強い深煎り・ロブスタ比率の高いコーヒーを砂糖やミルクで和らげる文化がある一方、浅煎り・中煎りのアラビカ種を使うことでコーヒーの苦味水準そのものを下げるという、別のアプローチを取る文化があると記しています。
範囲: SCA公式『Coffee Sensory and Cupping Handbook』(2021)第7章、焙煎度と品種による苦味差の記述
注記: 原文: "Other cultures have 'solved' the coffee bitterness problem using a different approach, using light- or medium-roasted C. arabica coffee. The level of bitterness of these brews is much lower than with dark-roasted coffee"。specialty coffeeという語自体は本節に出ないが、業界文脈で浅煎り・アラビカ中心のスペシャルティコーヒーはこの低苦味側に位置づく。
データを表示
concept-specialty-coffee —has_perceived_bitterness_associated_with→ "SCA公式ハンドブックは、苦味の強い深煎り・ロブスタ比率の高いコーヒーに対し、砂糖やミルクで苦味を弱める文化がある一方、「他の文化は、浅煎り・中煎りのアラビカ種コーヒーを使うという別のアプローチでコーヒーの苦味問題を「解決」してきた。これらの抽出液の苦味水準ははるかに低い」と記す。"北欧の浅煎りスタイルは、名前の分かる個々の焙煎人によって具体的に始められたと語られています。ある焙煎人は、輸出業者が持ち込んだサンプルの味に比べ自店の焙煎豆が焦げた味だったことに気づいたのが転機だったと振り返っています。
範囲: ノルウェー・デンマークのspecialty coffee焙煎人への取材(2023年)
注記: 業界誌(Perfect Daily Grind)による2023年のインタビュー記事。「北欧」という地域名を冠した焙煎スタイル自体は特定の焙煎人・時期に遡れる一方、その地域名による呼称そのものには様式を確立した当人が異論を述べている点に留意。地域名のついた呼称がその地域の慣行を一意に指すかどうかは一般化しない。
データを表示
process-coffee-roasting —has_historical_origin→ "いわゆる「北欧(ノルディック)の浅煎り」スタイルは、オスロで焙煎所を開いたTim Wendelboeや、コペンハーゲンのCoffee Collective共同創業者Klaus Thomsenら、名前の分かる個々の焙煎人によって具体的に始められたとされる。Wendelboeは、輸出業者が持ち込んだコーヒーサンプルの味に比べ自店の焙煎豆が焦げた味だったことに気づいたのが転機だったと語る。一方Thomsen自身は「『ノルディック・ロースト』という用語は好きではない」としながらも、できるだけ浅く・コーヒー本来の発達を抑えるこのアプローチ自体は世界的に大きな影響力を持つと認めている。"ただし、浅く煎るという選択が消費者の頭の中まで書き換えているとは限りません。ブラジルの消費者調査では、スペシャルティコーヒーに期待する基本味として苦味が甘味に次いで挙がりました。研究者は、この種のコーヒーはコモディティコーヒーに比べて苦味が低いにもかかわらず、と付け加えています。
範囲: ブラジル消費者(n=1,005)対象のデジタル質問紙調査、スペシャルティコーヒーへの期待基本味
注記: 原文: "Bitter is the second basic taste they expect to find in specialty coffee (41.6%), even though this type of coffee has a lower bitterness compared to commodity coffee."。消費者の期待(苦味を予期する)と、業界側の実際の苦味水準(コモディティより低い)にずれがある観察。差別化銘柄=苦味を前面に出す、という単純化に対する複雑化材料。
データを表示
concept-specialty-coffee —has_sensory_attribute→ "ブラジルの消費者1,005名を対象にした調査で、スペシャルティコーヒーに期待する基本味として「甘味」(71.4%)に次いで「苦味」(41.6%)が2番目に多く挙げられた。研究者は「この種のコーヒーはコモディティコーヒーに比べて苦味が低いにもかかわらず」と付記する。"深煎りの苦味を、売り場はどう言うか
深煎りの苦味を、商品の言葉はそのまま掲げることもあります。無糖ブラック缶コーヒーの上位ラインの商品ページは、見出しに「上質な苦みと余韻」を掲げ、焙煎方法へのこだわりと結び付けて説明しています。
範囲: UCC公式オンラインストア、日本の大量流通RTD缶コーヒー市場、無糖ブラック区分
注記: 原文見出し: 「上質な苦みと余韻」。原文本文: 「コーヒーの焙煎方法にこだわり、2温度帯抽出(高温・低温)を行うことで、雑味のない「上質な苦み」「余韻」を引き出しました。」。大量流通品(缶コーヒー)側が苦味を抜くのではなく前面に出す例であり、H10再定式化に対する単純化を許さない材料。
データを表示
concept-rtd-canned-coffee —has_sensory_attribute→ "UCC上島珈琲の公式オンラインストア商品ページは、大量流通する無糖ブラック缶コーヒー『UCC BLACK無糖 黒の余韻』の見出しに「上質な苦みと余韻」を掲げ、本文で「コーヒーの焙煎方法にこだわり、2温度帯抽出(高温・低温)を行うことで、雑味のない「上質な苦み」「余韻」を引き出しました」と説明する。"同じ発想は別のブランドにも見られます。朝専用の無糖ブラックのラインは「キリッと苦い味わい」を前面に出す一方、同じブランドの微糖ラインの説明では苦味の語には一切触れていません。
範囲: メーカー公式商品ページ(取得日 2026-09-04)
注記: 同一ブランド内での無糖ブラック対微糖の対比例。
データを表示
concept-rtd-canned-coffee —is_documented_as_having→ "アサヒ飲料WONDAは、無糖ブラックの朝専用ライン『モーニングショット』の説明で「キリッと苦い味わいで気持ちよく仕事に向かえる」と苦味を明示的に価値語として掲げる一方、微糖ライン『金の微糖』の説明では苦味語に一切触れず「ちょうどよい甘さ」を掲げる。"一方で、現行ラインナップ全体を通じて苦味の語を一例も使わない銘柄群もあります。ある缶コーヒーの5銘柄は、いずれも「コク」「香り」「すっきり」「ミルク感」「甘さ」の語だけで説明されています。深煎りが苦味を作るという工程の話と、その苦味を売り場でどう名指すかという話は、別の話です。
範囲: メーカー公式商品ページ(取得日 2026-09-04)
注記: 無糖ブラック相当の『香るブラック』も含め苦味語なし。
データを表示
concept-rtd-canned-coffee —is_documented_as_having→ "日本コカ・コーラのジョージア公式製品一覧ページに掲載された現行ラインナップのうち、エメラルドマウンテンブレンド・同至福の微糖・香るブラック・香る微糖・ザ・ブレンドの5銘柄はいずれも「苦味」語彙を一例も用いず、「コク」「香り」「すっきり」「ミルク感」「甘さ」の語に統一されている。"分かっていないこと
- 焙煎度と苦味官能評点の対応を直接測った資料は、単一産地・単一豆ロットの実験にとどまり、コーヒー全体への一般化はここでは確認できていません。
- クロロゲン酸の減少とカフェイン酸の増加を確かめた資料は、いずれも成分の定量であり、ヒトの苦味官能パネルとは結び付けられていません。
- 浅煎りへの転換がなぜ消費者の期待(苦味への連想)まで書き換えないのかは、ここで確認できた資料の範囲では答えが出ていません。
よく問われること
コーヒーは深煎りにするほど苦くなるのか
訓練された評価者による官能評点は、浅煎りから深煎りへ焙煎が進むにつれて有意に上がったと一つの研究は報告している。SCA公式のセンサリー教本も、酸味は浅煎りで、苦味は深煎りで優勢になると整理している。ただしこの官能評点の実験は単一産地・単一ロットのコールドブリューでの結果であり、豆の産地や抽出方法が違っても同じだけ苦くなるかは、ここでは確かめられていない。
コーヒーの苦味はカフェインが多いから強くなるのか
焙煎が進むとカフェインの量はむしろ減っていくとSCA公式の教本は述べており、苦味の強さとカフェイン量は同じ向きに動かない。カフェイン以外にも、キニド類や焙煎で生じる化合物群が苦味に寄与すると複数の資料は報告しており、コーヒーの苦味を単一の成分に還元できないことがうかがえる。
ほうじ茶は深く炒るほど苦くなるのか
高知県の茶業試験場の記録では、カテキン類の合計量は一番茶・刈番茶・二番茶のいずれでも焙煎程度を深めるほど減少したと報告されている(例えば一番茶で荒茶34.89から深炒6.98へ)。一方、ある試料の香りの記述は、中炒り(150度12分)で「苦い香り、焦げた焙煎香」、より浅い炒り(130度10分)で「好ましい焙煎香」と変わったとも記録されている。ただしこの香りの記述は単一原料での事例であり、ヒトの苦味官能パネルによる測定を伴っていない。
関連する項目:コーヒーの焙煎 /クロロゲン酸 /カフェイン /ほうじ茶の焙煎 /スペシャルティコーヒー /缶コーヒー
関連する研究ノート: 規格は苦味を公認し、売り場は苦味を選ぶ
出典台帳: 出典一覧
この頁の引用のしかた
青木大(NIGAMI LAB)(2026). 焙煎は苦味を作り、深煎りは苦味を変える. https://nigamilab.com/notes/roasting-makes-bitterness/
主張ごとの固定リンクは各カードの #clm-… です。データは CC BY 4.0、配布は データを使う。 データセットの DOI: 10.5281/zenodo.22739101