研究ノート 029 — 2026-09-04
柿は渋いのであって、苦くない
渋柿をかじると口の中が乾いてすぼまるが、その感覚を「苦い」と呼ぶ資料は見当たらない。柿の渋味研究、渋味そのものの総説、官能分析の国際基準を並べても、柿の渋み成分は一貫して渋味の側に置かれ、苦味とは別に記述される。柿の資料は、渋味を消す・弱める処理を「脱渋」と呼び、その仕組みや方法の違いを詳しく記録している。ここでは渋味と苦味を分ける一般的な整理を出発点に、柿の渋み成分の呼び名、甘柿と渋柿を分ける型、そして脱渋の方法によって何が変わるかを、資料の逐語から辿る。
このページの内容(11 節)
この頁でわかること
- 渋味は苦味とは別の感覚として、口の中の乾き・締まりの触感で定義づけられていることが、複数の総説で確認されている。
- 柿の渋味成分カキタンニンは、可溶性の状態にあるときだけ渋味を感じさせ、不溶性に変わると渋味を感じなくなることが確認されている。
- 甘柿と渋柿は、渋味が消える仕組みの違いによって四つの型に分けられることが確認されている。
- 脱渋の方法(エタノール・炭酸ガス・乾燥・温湯)によって、必要な条件や日数がどう変わるかは、それぞれ個別の実験で測られている。
渋味は、苦味とは別の感覚として記述される
渋味の総説は、渋味を基本味の苦味ではなく、乾き・粗さ・口がきゅっと締まる感じを含む口内の触感として整理する。
範囲: 食品や飲みものを口にしたときの感じ方
注記: 二つは同時に起こり互いの感じ方へ影響することがあるが、味としての苦味と、乾きや粗さとしての渋味は分けて記録する。 / 2026-08-31: 支持根拠に全文確認由来がないため established から supported へ較正降格。全文確認後に再昇格可。
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sensation-astringent —is_not_synonymous_with→ sensation-bitterタンニンは、口の中でこの渋味を引き起こす成分として位置づけられる。
範囲: Food tannins
注記: 強度と質は構造・濃度・マトリクスに依存する。
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compound-tannins —can_elicit→ sensation-astringent同じ総説は、一部のタンニン(没食子酸エステル型のペンタガロイルグルコースやエラジタンニンなど)が苦味受容体を活性化し、苦味にも寄与しうると記す。渋味を担う成分と苦味を担う成分が、同じ「タンニン」という括りに含まれていても、渋味と苦味という感覚そのものは別に扱われている。
範囲: 一部の食品タンニンおよびポリフェノール
注記: すべてのタンニンが同じ受容体・感覚プロファイルを持つわけではない。
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compound-tannins —can_contribute_to→ sensation-bitterワインの官能分析に関する国際的な合意文書も、この区別を制度として持つ。刺激検出訓練で確認する五基本味に苦味を挙げ、渋味はそれとは別枠で併記する。
範囲: OIV『ワインの官能分析』文書(2016年3月)パートI b) 官能的鋭敏度を判定する試験の節。ぶどう・ぶどう由来飲料(moûts, vins et autres boissons d'origine vitivinicole)の官能パネル訓練プログラムを対象とする。
注記: 同節は刺激検出訓練で調べるべき味として『甘味・酸味・塩味・うま味・苦味』の五基本味を挙げ、渋味(astringence)はこれとは別枠で『ainsi que(それに加えて)』併記される。文書自体の冒頭Avertissementは、加盟国決議の審査手続きを経ておらず『OIV決議として扱うことはできない』分科会合意文書だと明記しており、本claimも制度上の位置づけの記録として収載し、確立した科学的合意の主張とはしない。
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sensation-bitter —can_be_measured_separately_from→ sensation-astringent同じ文書の訓練用溶液の一覧でも、苦味の基準は硫酸キニーネ、渋味の基準はタンニン酸1 g/Lと、別の行に置かれている。
範囲: 同文書パートI 表1。苦味の基準(硫酸キニーネ)と同じ表内で、渋味の基準として別項目に置かれる。
注記: 同じ訓練表の中で、苦味の基準物質(硫酸キニーネ)と渋味の基準物質(タンニン酸)が別々の行として明確に分けられていることの記録。
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compound-tannins —is_used_as_sensory_reference_for→ sensation-astringent柿の渋み成分は「カキタンニン」と呼ばれる
柿の渋み研究は、柿に含まれる渋味成分を「カキタンニン」と呼び、渋味は可溶性タンニンの濃度に起因すると説明する。甘柿でも未熟なうちは渋味を感じる。柿の果実には「タンニン細胞」と呼ばれる特殊な細胞があり、この細胞に可溶性タンニンが高濃度で蓄積するため、柿の果実は一般に強い渋味を呈する。
注記: 柿の渋味成分はカキタンニンと呼ばれ、渋味は可溶性タンニンの濃度に起因するという基本的な位置づけ。稲荷・友枝(1992)と神崎(2016)の双方が同様に述べる。
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compound-kaki-tannin —are_key_astringents_of→ ingredient-persimmonカキタンニンの合成には、プロアントシアニジン生合成に関わる遺伝子(フラボノイド合成系)が関与しており、カキタンニンはタンニンの中でも縮合型タンニン(プロアントシアニジン)にあたる。
注記: 柿果実のタンニン細胞に蓄積する縮合型タンニン(プロアントシアニジン)としての位置づけ。
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compound-kaki-tannin —is_a_type_of→ compound-tannins脱渋とは、渋味成分を溶けなくすること
柿の資料は、脱渋の機構をカキタンニンが可溶性から不溶性に変わることだと説明する。柿の果肉中で酵素的に生成されたアセトアルデヒドが、可溶性タンニンを不溶化させる働きを持つ。
注記: 稲荷・友枝(1992、全文確認)と神崎(2016、全文確認)の双方が独立に、アセトアルデヒドによるタンニン不溶化という同じ機構を述べる。ただし不溶化したタンニンの分子構造そのものは両論文とも未解明としている。
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compound-kaki-tannin —has_currently_proposed_mechanisms→ "渋抜き(脱渋)の機構は、カキタンニンが可溶性から不溶性に変わることによる。柿の果肉中で酵素的に生成されたアセトアルデヒドが可溶性タンニンを不溶化させる働きを持つ。"このアセトアルデヒドは、ピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)またはアルコール脱水素酵素(ADH)の働きにより生成されると考えられる。渋柿('平核無'ほか)・甘柿('富有柿')いずれでも両酵素の活性は成育・成熟期間中つねに存在し、PDC活性はADH活性よりも約100倍高いことが測定された。
注記: 稲荷・友枝(1992)の酵素活性測定実験による。渋柿として平核無・蜂屋柿・富士柿・鶴の子、甘柿として富有柿(いずれも岐阜県産)を試料とした。
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ingredient-persimmon —has_currently_proposed_mechanisms→ "アセトアルデヒドは、ピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)またはアルコール脱水素酵素(ADH)の働きにより生成されると考えられる。渋柿('平核無'ほか)・甘柿('富有柿')いずれでも両酵素の活性は成育・成熟期間中つねに存在し、PDC活性はADH活性よりも約100倍高いことが測定された。"可溶性タンニン濃度が0.1%以下になると渋味を感じられなくなることが、塩化第二鉄反応および食味試験で確認された。
注記: 稲荷・友枝(1992)の食味試験による。岐阜県食品科学研究所の報告(2008年度)は、渋みを感じない基準として同じ研究系列(稲荷ら, 岐阜女子大)の0.05%(50mg/100g)以下という値を引用しており、測定文脈(食味試験 vs 別報告の基準値)が異なるため別数値として併記する。
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compound-kaki-tannin —has_astringency_threshold_of→ "可溶性タンニン濃度が0.1%以下になると渋味を感じられなくなることが、塩化第二鉄反応および食味試験で確認された。7%グルコース+7%フルクトース溶液にタンニン酸を添加する食味試験では、タンニン酸濃度0.10%以上で渋味を感じる被験者が多く、柿ジュースでもタンニン酸濃度0.10%が渋味を感じ始める濃度と判定された。"甘柿('富有柿')も6~7月の未熟期には可溶性タンニン濃度0.7%以上ときわめて渋味が強いが、9月以降は渋味を感じなくなる約0.1%以下まで減少する。渋柿('平核無')の可溶性タンニン濃度は7~8月には甘柿に比べきわめて多量だが徐々に減少し、11月には富有柿と大差がなくなる。同じ「柿」という果実でも、渋味が消える経路は一様ではない。
範囲: 富有柿(PCNA型甘柿)・平核無(渋柿)、岐阜県産、6月~11月の経時測定
注記: 稲荷・友枝(1992)。
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ingredient-persimmon —has_content_change_with_fruit_maturation→ "甘柿('富有柿')も6~7月の未熟期には可溶性タンニン濃度0.7%以上ときわめて渋味が強いが、9月以降は渋味を感じなくなる約0.1%以下まで減少する。渋柿('平核無')の可溶性タンニン濃度は7~8月には甘柿に比べきわめて多量だが徐々に減少し、11月には富有柿と大差がなくなる。"甘柿と渋柿を分ける四つの型
柿の品種は、脱渋性(渋味が消失する様式)に基づいて4つの型に分かれる: 完全甘柿(Pollination Constant Non-Astringent, PCNA)・不完全甘柿(Pollination Variant Non-Astringent, PVNA)・完全渋柿(Pollination Constant Astringent, PCA)・不完全渋柿(Pollination Variant Astringent, PVA)。
注記: 神崎(2016)が解説として整理し(原分類は菊池秋雄, 1948)、山田ら(2012)のNARO原著論文でも同じ4類型の枠組みが用いられている('太天'をPVA型と分類)。
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ingredient-persimmon —is_divided_into→ "脱渋性(渋味の消失様式)に基づく4類型: 完全甘柿(Pollination Constant Non-Astringent, PCNA)・不完全甘柿(Pollination Variant Non-Astringent, PVNA)・完全渋柿(Pollination Constant Astringent, PCA)・不完全渋柿(Pollination Variant Astringent, PVA)。"PCNA(完全甘柿)は果実発育初期に可溶性タンニンの蓄積が停止し、その後の果実肥大に伴う希釈によって脱渋が進む。タンニンを蓄積する能力を欠損した変異体とみなされ、劣性形質・一遺伝子支配の質的形質である。日本最古のPCNA品種は17世紀に報告された'御所'である。
注記: 神崎(2016)。
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concept-kaki-astringency-type-classification —has_currently_proposed_mechanisms→ "PCNA(完全甘柿)は果実発育初期に可溶性タンニンの蓄積が停止し、その後の果実肥大に伴う希釈によって脱渋が進む。タンニンを蓄積する能力を欠損した変異体とみなされ、劣性形質・一遺伝子支配の質的形質である。日本最古のPCNA品種は17世紀に報告された'御所'とされる。"PVNA(不完全甘柿)は種子で生産されるアセトアルデヒドによって果実発育後期に可溶性タンニンが不溶化し、脱渋が進む。複数の遺伝子に支配される量的形質で、比較的後代に遺伝しやすいためPVNA品種は日本各地に広がり多くの品種が存在する。日本最古のPVNA品種は13世紀に発見された'禅寺丸'である。
注記: 神崎(2016)。
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concept-kaki-astringency-type-classification —has_currently_proposed_mechanisms→ "PVNA(不完全甘柿)は種子で生産されるアセトアルデヒドによって果実発育後期に可溶性タンニンが不溶化し脱渋が進む。複数の遺伝子に支配される量的形質であり、比較的後代に遺伝しやすいためPVNA品種は日本各地に広がり多くの品種が存在する。日本最古のPVNA品種は13世紀に発見された'禅寺丸'とされる。"PCA(完全渋柿)は種子形成の有無にかかわらず、成熟しても果肉全体に強い渋味が残る。PVA(不完全渋柿)は種子ができても脱渋が不十分で、種子周辺だけに褐斑(ゴマ)が生じ、果肉全体としては渋味が残る。
注記: 神崎(2016)。山田ら(2012)は新品種'太天'について「系統適応性検定試験の一部の場所では熟期に強い渋みがあったことからPVA品種であった」と実例を報告しており、PVA品種で脱渋の程度が地域・年次により変動しうることを示す。
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concept-kaki-astringency-type-classification —has_currently_proposed_mechanisms→ "PCA(完全渋柿)は種子形成の有無にかかわらず成熟しても果肉全体に強い渋味が残る。PVA(不完全渋柿)は種子ができても脱渋が不十分で、種子周辺だけに褐斑(ゴマ)が生じ、果肉全体としては渋味が残る。"この四類型は日本の柿を前提にした枠組みで、そのまま世界共通とは限らない。中国原産の完全甘柿'羅田甜柿'の脱渋型はC-PCNAと呼ばれ、日本のPCNAとは遺伝様式が異なる。PCNAは劣性形質だがC-PCNAは優性形質として遺伝する。PCNAでは果実発育初期にタンニン合成系のうちフラボノイド合成に関わる遺伝子の発現が低下するのに対し、C-PCNAではこれらの遺伝子が発育後期まで発現し続ける一方、タンニン蓄積に関わる遺伝子の発現が低下する。
注記: 神崎(2016)。'羅田甜柿'は1982年に中国原産の甘柿品種として報告され、日本導入後の形質調査でPCNAとは異なる型(C-PCNA)であることが判明した。
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concept-kaki-astringency-type-classification —has_currently_proposed_mechanisms→ "中国原産の完全甘柿'羅田甜柿'の脱渋型はC-PCNAと呼ばれ、日本のPCNAとは異なる遺伝様式・機構を持つ。PCNAは劣性形質だがC-PCNAは優性形質として遺伝する。PCNAでは果実発育初期にタンニン合成系のうちフラボノイド合成に関わる遺伝子の発現が低下するのに対し、C-PCNAではこれらの遺伝子が発育後期まで発現し続ける一方、タンニン蓄積に関わる遺伝子の発現が低下する。"脱渋の方法を変えると、何が変わるか
渋柿をエタノールで処理して脱渋する場合、可溶性タンニン濃度が1%以下の時は脱渋できるが、3%以上の時は24時間のエタノール処理では脱渋できず、さらに長時間の処理が必要である。
範囲: 市販の複数品種の渋柿(富士柿・鶴の子・蜂屋柿A/B/C)、37℃・24時間のエタノール処理
注記: 処理前の可溶性タンニン濃度が3%以上の場合、24時間のエタノール処理では脱渋できず、さらに長時間の処理が必要だった。1%以下の場合は24時間で脱渋できた。試験した1品種(過熟した蜂屋柿A)はエタノール処理で脱渋できず、これはADH活性が検出されなかったことと関係すると推察された。稲荷・友枝(1992)。
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ingredient-persimmon —is_processed_by→ process-kaki-alcohol-deastringing炭酸ガスによる脱渋(CTSD)は、品種によって必要な日数が変わる。新品種'太天'のCTSD条件は、空気中に置いた後に二酸化炭素100%の環境へ置き、その後さらに空気中で保温する工程を経る。対照品種'平核無'は一般に炭酸ガス処理1日、空気中保温2日で脱渋が完了するのに対し、'太天'は空気中で保温する期間が長く、脱渋に6日を要する。
注記: 山田ら(2012)、農研機構果樹研究所(安芸津)での系統適応性検定試験。
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process-kaki-co2-deastringing —is_defined_as→ "新品種'太天'のCTSD炭酸ガス脱渋条件: 2005年は25℃の空気中に17時間置いた後、27℃・二酸化炭素100%に24時間置き、その後25℃の空気中に120時間保温。2006年は26℃の空気中に16時間置いた後、27℃・二酸化炭素100%に25時間置き、その後25℃の空気中に120時間保温。対照品種'平核無'は一般に炭酸ガス処理1日+空気中保温2日で脱渋が完了しており、'太天'は脱渋に6日を要し空気中保温期間が長い。"同じ'太天'の育成試験では、ドライアイスによる脱渋は果皮障害と軟化を発生させやすく、有効な方法は見いだされなかった。エチルアルコールによる脱渋は可能だが、商品生産上の適当な方法は十分明らかになっていない。脱渋の方法は、品種によって効きやすさも実用化のしやすさも変わる。
範囲: '太天'(PVA型渋柿)、農研機構果樹研究所の育成試験
注記: 山田ら(2012)。
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ingredient-persimmon —has_methodological_limitation→ "ドライアイスによる脱渋は果皮障害と軟化を発生させやすく、有効な方法は見いだされなかった。エチルアルコールによる脱渋は可能だが、商品生産上の適当な方法はまだ十分明らかになっていない(2012年時点)。"干し柿は、乾燥という工程そのものが脱渋を進める。干柿製造では色を美しくするため、皮をむいた柿を硫黄で燻蒸してから天日乾燥するのが通例だが、硫黄燻蒸をしない場合のほうが脱渋は早く進む。硫黄量が多いほど脱渋に日数を要したが、標準の倍量を燃やした条件でも3週間で脱渋でき、渋味がやや残る程度だった。乾燥中はいずれの条件でもアルコール脱水素酵素(ADH)の活性は検出されず、ピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)の活性はどの条件にも存在したことから、乾燥による脱渋にはPDCが関与すると推察された。
範囲: 蜂屋柿(岐阜県産)、1987年11月採取
注記: 稲荷・友枝(1992)。
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process-kaki-drying-deastringing —has_currently_proposed_mechanisms→ "干柿製造では色を美しくするため、皮をむいた柿を硫黄で燻蒸してから天日乾燥するのが通例。硫黄20gを20分間燃やす標準区・倍量40gを60分間燃やす区・無処理区を比較した実験では、無処理区が最も早く(1週間で)脱渋でき、硫黄量が多いほど脱渋に日数を要したが、倍量区でも3週間で脱渋できた(渋みがやや残る程度)。乾燥中はいずれの区でもADH活性は検出されなかった一方、PDC活性はどの区にも存在したことから、乾燥による脱渋にはPDCが関与すると推察された。"干し柿は、渋柿を生食用に脱渋するのとは別の利用経路として位置づけられる。皮をむいた後にイオウを燃やして燻蒸し、その後天日乾燥して商品にするという工程が、干柿の製造として記録されている。
注記: 渋柿を原料とする干し柿は、果皮をむいて乾燥させる過程で脱渋が進行することを利用した加工品である。稲荷・友枝(1992)の干柿製造所の記述、山田ら(2012)の「多くの渋ガキ品種は、干柿にすれば食用とはできるが、脱渋処理をしても容易に脱渋しない」という記述による。
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ingredient-hoshigaki —is_prepared_by→ process-kaki-drying-deastringing脱渋は、いつでも元に戻らないわけではない
脱渋は、渋味成分そのものを分解する処理ではない。温湯脱渋(42℃浸漬)した渋柿を煮沸すると、渋味が再び現れる。顕微鏡観察では、脱渋果のタンニン細胞内で原形質がゲル状に固まっており、この凝固物は冷水やアルコール類には不溶だが熱水や希釈した酸には可溶だった。渋戻りは、タンニン物質どうしの化学的な縮合・重合の解離によるものではなく、タンニン細胞の内容物がタンニン物質とともにゲル化して細胞全体が凝固したものが、加熱によって溶け、可溶性タンニンとして再び遊出することで起こると結論づけた。
範囲: 温湯(42℃)脱渋した未熟'平核無'、香川大学農学部の実験
注記: 北川(1969)。渋戻りの機構を直接主題とした最も古い一次資料の一つ。
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process-kaki-astringency-recurrence —has_currently_proposed_mechanisms→ "温湯脱渋(42℃浸漬)した渋柿を煮沸すると渋味が再現する。顕微鏡観察により、脱渋果のタンニン細胞内では原形質がゲル状に固まっており、この凝固物は冷水・メタノール・エタノール・エーテル・アセトン・ホルムアミドに不溶だが熱水・1%塩酸・1%メタノール性塩酸・1%エタノール性塩酸には可溶だった。このことから渋戻りは、タンニン物質の化学的な縮合・重合(およびその可逆的な解離)によるものではなく、タンニン細胞内容物がタンニン物質とともにゲル化して細胞全体が凝固したものが、加熱によって溶解し可溶性タンニンとして再遊出することによると結論づけられた。未処理の渋柿を煮沸すると150分後に脱渋前の可溶性タンニン物質の約55%が可溶化し、100℃の水では1%メタノール性塩酸に溶解した分の約90%以上が可溶化した。超音波でタンニン細胞のゲルを破壊した場合は60分後に約56%が可溶化した。"一方、別の報告は同じ現象を異なる言葉で説明する。渋戻りを、縮重合し不溶化した不溶性タンニンが、加熱により重合が解けて可溶性タンニンになることで生じる現象と説明する報告もある。渋戻りの仕組みについて、資料の間で言葉づかいが揃っていない。
範囲: 岐阜県産渋柿('伊自良大実'・'刀根早生')を用いた応用加工技術の報告
注記: 北川(1969)が温湯脱渋果について示した「化学的な縮合・重合の可逆的解離ではなくタンニン細胞内容物のゲル溶解」という機構とは異なる語り方をしている。県研究報告という応用開発寄りの資料の説明であり、独自の構造解析によって検証されたものではない可能性があるため、北川(1969)の学術的知見と並記し、記述粒度の違いとして扱う。
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process-kaki-astringency-recurrence —has_currently_proposed_mechanisms→ "岐阜県食品科学研究所の報告(2008年度)は、渋戻りを「縮重合し不溶化した不溶性タンニンが、加熱により重合が解して可溶性タンニンになることにより生じる現象」と説明している。"渋戻りは温度にも左右される。'Triumph'品種では、40℃で5時間、または60℃で1時間の浸漬で渋味が除去されたが、20℃・80℃の処理では効果がなかった。60℃の処理を2時間を超えて続けると渋味が再び現れ、その後の炭酸ガス処理でも渋味は減らなかった。炭酸ガス処理で渋味が消えた果実でも、高温にさらすと渋味が再び現れた。
範囲: 'Triumph'品種、Ben-Arie & Sonego(1993)の実験
注記: 60℃処理を2時間を超えて延長すると渋戻りが生じ、その後の二酸化炭素処理でも解消しなかった。二酸化炭素処理により脱渋した無渋果でも、高温にさらすと渋戻りが生じた。アブストラクトのみの確認であり、フルテキストの実験条件詳細は未確認。
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process-kaki-hot-water-deastringing —can_generate→ process-kaki-astringency-recurrence辞書の中では、渋いと苦いの距離が縮む
ここまでの学術資料は、渋味と苦味を一貫して分けて記述してきた。ところが国語辞典を見ると、様子が変わる。日本語の「渋い」は室町時代の形容詞「渋し」に遡る。精選版日本国語大辞典は語義の一つを「渋柿をかじったような、舌をしびれさせるような味である」と定義しており、初出用例として室町時代の狂言の台詞が引かれている。
注記: コトバンク(精選版日本国語大辞典)。日本語の味覚語「渋い」そのものが渋柿を典拠として定義されている点の記録。
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sensation-astringent —has_name_etymology→ "日本語の「渋い」は室町時代の形容詞「渋し」に遡るとされる。精選版日本国語大辞典は語義の一つを「渋柿をかじったような、舌をしびれさせるような味である」と定義しており、初出用例として室町時代の狂言の台詞(「さればこそしぶいが一定じゃ、そうじてしぶがきをくふては、うそがふかれぬ」)が引かれている。"さらにデジタル大辞泉の「渋い」の項目では、類語欄に「苦い」「ほろ苦い」が挙げられている。学術資料が渋味と苦味を別の感覚として峻別する一方、国語辞典の類語欄は両者を近い言葉として並べる。柿をかじって「渋い」と言うか「苦い」と言うかが揺れるとすれば、その揺れの一端は日本語という言語の側にもある。
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sensation-astringent —is_presented_as→ "デジタル大辞泉の「渋い」項目の類語欄では「苦い」「ほろ苦い」が類語として挙げられている。"正直な注記
- 柿の脱渋研究は主に'平核無'・'富有柿'・'太天'・'Triumph'など特定の品種を対象にしたもので、すべての柿品種に同じ数値がそのまま当てはまるとは限らない。
- 渋戻りの仕組みについては、ゲル化として説明する報告と縮重合の解離として説明する報告があり、資料間で言葉づかいが揃っていない。
- 国語辞典の記述はコトバンクというアグリゲーターサイト経由の抽出で、辞典原本を直接確認したものではない。
- 不溶化したカキタンニンの化学構造そのものは、資料中でも未解明と明記されている。
よく問われること
柿の渋味と苦味は同じものか
総説の整理では、渋味と苦味は別の感覚として扱われる。渋味は乾き・粗さ・口がきゅっと締まる感じを含む口内の触感として説明され、苦味は苦味センサーを介して感じる味として区別される。一方で、複数の研究では渋味と苦味は同時に感じられ、一方の感じ方が他方に影響するため、評価者が両者を混同する問題も記録されている。日本語の辞書では「渋い」の類語として「苦い」「ほろ苦い」が挙げられており、言葉の上では両者の距離が縮む場面もある。
柿の渋抜き(脱渋)ではなぜ渋くなくなるのか
柿の渋味成分カキタンニンは、可溶性の状態にあるときに渋味を感じさせる。脱渋では、果肉の中で酵素的に作られたアセトアルデヒドがこの可溶性タンニンを不溶性に変えることで、渋味を感じなくなることが確認されている。可溶性タンニンの濃度がおよそ0.1%以下になると渋味を感じなくなることが、食味試験で確認されている。ただしタンニンの化学構造そのものがどう変わるのかは、まだ解明されていないと元の研究でも明記されている。
一度抜けた渋みはまた戻ることがあるのか
ある。温湯で脱渋した柿を煮沸すると渋味が再現する現象が実験で確認されている。顕微鏡での観察では、脱渋した果実のタンニン細胞内の物質が熱水や希塩酸には溶けるが、冷水やエタノールなどには溶けないことが分かっており、渋戻りが縮合・重合の可逆的な解離とは違う仕組みで起きている可能性が示されている。別の報告は、不溶性タンニンが加熱で重合が解けて可溶性タンニンに戻ることで渋戻りが起きると説明しているが、これは実証データを伴わない導入部の説明にとどまる。
分かっていないこと
- 渋味と苦味を分ける感覚(乾き・締まり・苦味受容体)の相対的な寄与がどう組み合わさっているかは、総説自身がまだ解明されていないとする。
- 渋戻りで生じる不溶化物質の化学構造そのものは、元の研究でも未解明とされている。
- 硫黄燻蒸の量と脱渋日数の関係は一つの品種・一つの産地の実験で示された値であり、他の産地や品種への一般化はまだ確かめられていない。
- 「渋い」という言葉と「苦い」という言葉が辞書の上でどこまで意味を共有しているかについて、両語の歴史的な関係を扱った資料はまだ見つかっていない。
関連する項目:渋味 /苦味 /タンニン /柿 /カキタンニン /柿の甘渋性分類 /干し柿
関連する研究ノート: 苦味と渋味とえぐみは、何が違うのか
出典台帳: 出典一覧
この頁の引用のしかた
青木大(NIGAMI LAB)(2026). 柿は渋いのであって、苦くない. https://nigamilab.com/notes/persimmon-astringent-not-bitter/
主張ごとの固定リンクは各カードの #clm-… です。データは CC BY 4.0、配布は データを使う。 データセットの DOI: 10.5281/zenodo.22739101