研究ノート 025 — 2026-09-04
「苦い」の地図——一語から東と西へ
地図を広げるとき、全部の地点を先に見せてから説明する方法もあれば、一つの場所に足を置いて、そこから歩いて回る方法もある。このノートは後者を選ぶ。出発点は日本語の「苦い」。そこから東へ、西へと辞典を読み進め、途中で規格やビール・コーヒー・ワインの用語体系という別種の地図に出会い、感覚そのものが取り違えられる場所を通り、最後に、程度を弱めた語だけが価値を帯びる小さな余白にたどり着く。
出発点——「苦い」という一語の中に
デジタル大辞泉は「苦い」の第一義を『舌を刺激し、口がゆがむような嫌な味である。』と定義する。味そのものを説明する語釈に、すでに「嫌な」という評価が組み込まれている。
範囲: デジタル大辞泉「苦い」語義1(見出し にが・い【苦い】、コトバンク掲載)
注記: 味覚の義。同辞典は語義2・3(比喩義)を別項として続けて示す。
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concept-word-nigai-ja —is_defined_in_dictionary_as→ "『舌を刺激し、口がゆがむような嫌な味である。』用例「餅が黒焦げになって―・い」「―・いコーヒー」"同じ語の第三義は、味から離れて『つらくて苦しい。その事を考えたり思い出したりするのも嫌である。』へと広がる。出発点に選んだ一語のうちに、すでに味覚と心情という二つの道が用意されている。
範囲: デジタル大辞泉「苦い」語義3(見出し にが・い【苦い】、コトバンク掲載)
注記: 「苦い経験」の用例はこの語義3に含まれる。
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concept-word-nigai-ja —is_defined_in_dictionary_as→ "『つらくて苦しい。その事を考えたり思い出したりするのも嫌である。』用例「―・い思い」「―・い経験」"一歩を踏み出す前に、足元にも小さな来歴がある。「苦み」という名詞について、同じ辞典は補説として『「味」は当て字。』と記す。地図の起点そのものが、すでに一枚岩の由来を持たない。
範囲: デジタル大辞泉「苦み/苦味」補説欄(コトバンク掲載)
注記: 「苦味」という漢字表記は当て字であると辞典が明記している。
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concept-word-nigai-ja —has_name_etymology→ "『[補説]「味」は当て字。』"東へ——苦は植物の名、程度は独立した語になる
中国語の「苦」を漢典(zdic.net)が引く『說文解字』は、『大苦,苓也(大苦とは苓のことである)』と記す。字が指し示す本義は、味の性質ではなく一つの植物の名だった。
範囲: 漢典(zdic.net)見出し語「苦」に引用された『說文解字』本文
注記: 苦の本来の意味が植物名(大苦・苓)とされている点の逐語。
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concept-word-ku-zh —has_name_etymology→ "『大苦,苓也。从艸古聲。康杜切』(大苦とは苓のことである。艸を意符、古を声符とする。反切は康杜切。)"そこから意味は苦難へと広がる。教育部《重編國語辭典修訂本》が「甘苦」の語義として挙げるのは『比喻處境的順逆與苦樂。(処遇の順逆と苦楽を比喩的に表す。)』であり、用例として『史記』の『燕王弔死問孤,與百姓同甘苦。』が添えられる。植物の名から出発した字が、為政者と民が苦楽を共にするという場面にまで運ばれている。
範囲: 教育部《重編國語辭典修訂本》見出し語「甘苦」義項2
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concept-word-ku-zh —is_documented_in→ "複合語「甘苦」の義項2:『比喻處境的順逆與苦樂。』(処遇の順逆と苦楽を比喩的に表す。)用例として『燕王弔死問孤,與百姓同甘苦。』(『史記』からの引用)"朝鮮語の地図はまた違う形をしている。표준국어대사전は「쓰다」を『혀로 느끼는 맛이 한약이나 소태,씀바귀의 맛과 같다.(舌で感じる味が、漢方薬やソテ〔ニガキ〕、씀바귀〔苦菜の一種〕の味と同じである。)』と、具体的な物や植物で定義する。
範囲: 国立国語院 표준국어대사전 見出し語「쓰다6」(형용사)義項
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concept-word-sseuda-ko —is_defined_in_dictionary_as→ "『혀로 느끼는 맛이 한약이나 소태, 씀바귀의 맛과 같다.』(舌で感じる味が、漢方薬やソテ(ニガキ)、씀바귀(苦菜の一種)の味と同じである。)"ところがこの辞典は、苦味の強さそのものにも一つの見出し語を与えている。「씁쓸하다」の語釈は『조금 쓰다.(少し苦い。)』のただ一文で、これが唯一の義項として立てられている。程度の違いが、派生的な言い回しではなく独立した見出し語の資格を持つ。
範囲: 国立国語院 표준국어대사전 見出し語「씁쓸하다」(형용사)唯一の義項
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concept-word-sseuda-ko —is_documented_in→ "『조금 쓰다.』(少し苦い。)"タイ語はまた別の道を歩む。タイ王立学士院の辞典は「ขม」を『รสอย่างหนึ่งอย่างรสสะเดาหรือบอระเพ็ด.(サダオ〔ニーム〕やボラペット〔ツヅラフジ科のつる植物〕の味のような味の一種。)』と、二つの植物名で輪郭を描く。
範囲: タイ王立学士院『พจนานุกรม ฉบับราชบัณฑิตยสถาน พ.ศ.๒๕๕๔』見出し語「ขม ๑」
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concept-word-khom-th —is_defined_in_dictionary_as→ "『รสอย่างหนึ่งอย่างรสสะเดาหรือบอระเพ็ด.』(サダオ〔ニーム〕やボラペット〔ツヅラフジ科のつる植物〕の味のような味の一種。)"そして味の語から派生した「ขมขื่น」は、味覚とは別の場所に着地する。同じ辞典はこれを『รู้สึกชํ้าใจแต่ฝืนไว้ เพราะไม่สามารถแสดงออกมาได้(心が傷ついたのを我慢すること、それを表に出せないため。)』と説明する。苦さが表に出せない痛みを堪えることの名前になっている。
範囲: タイ王立学士院『พจนานุกรม ฉบับราชบัณฑิตยสถาน พ.ศ.๒๕๕๔』見出し語「ขมขื่น」(動詞義項)
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concept-word-khom-th —is_presented_as→ "『รู้สึกชํ้าใจแต่ฝืนไว้ เพราะไม่สามารถแสดงออกมาได้, ขื่นขม ก็ใช้.』(心が傷ついたのを我慢すること、それを表に出せないため。「ขื่นขม」とも言う。)"西へ——噛むこと、尖ること、そしてラテン語の子どもたち
地図を西へ折り返すと、出発点の足場が変わる。ラテン語のamarusをPerseus収録のLewis & Short A Latin Dictionaryは『"absinthi latex,"..."sensus...judicat dulce, amarum"(「ニガヨモギの汁」…「感覚は甘いもの・苦いものを判別する」)』という用例で示し、dulcis(甘い)の対義語として文字義を定める。東で植物の名だった場所に、西でも同じくニガヨモギという植物が現れる。
範囲: Perseus, Lewis & Short A Latin Dictionary、見出し語amarus、語義I
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concept-word-amarus-la —is_defined_in_dictionary_as→ "『I. Lit., of tasto (opp. dulcis): "absinthi latex,"..."sensus...judicat dulce, amarum"』(文字義として、味覚について〔dulcis「甘い」の対義語〕: 「ニガヨモギの汁」…「感覚は甘いもの・苦いものを判別する」との用例を挙げる)"しかし英語のbitterの語源は、植物ではなく動作から始まる。Merriam-Websterの語源記述は『derivatives from the base of *bītan- "to bite"(「噛む」を語基とする派生語)』と記す。
範囲: Merriam-Webster Dictionary online、見出し語bitter、Word History / Etymology(形容詞)
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concept-word-bitter-en —has_name_etymology→ "『Middle English, going back to Old English biter, going back to Germanic *bitra- (whence Old Saxon & Old High German bittar "acrid-tasting," Old Norse bitr "biting, sharp") and *baitra- (whence Gothic baitrs "sharp-tasting"), derivatives from the base of *bītan- "to bite"』(中英語を経て古英語biterに遡り、さらにゲルマン祖語の再構形*bitra-〔古サクソン語・古高ドイツ語bittar「酸味・辛味のある」、古ノルド語bitr「噛みつくような、鋭い」の由来〕および*baitra-〔ゴート語baitrs「鋭い味の」の由来〕に遡るとし、これらは*bītan-「噛む」を語基とする派生語であるとする)"ギリシア語のπικρόςはさらに違う始まり方をする。LSJ(Liddell-Scott-Jones)の語釈が示す原義は『prop. A. pointed, sharp, keen(原義として、尖った、鋭い、鋭利な)』であり、矢や棘を形容する語として立ち上がってから、味覚の刺激的な感じへと意味が広がっていく。
範囲: Perseus, LSJ (Liddell-Scott-Jones) A Greek-English Lexicon、見出し語πικρός、語義A(prop.)
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concept-word-pikros-grc —is_defined_in_dictionary_as→ "『prop. A. pointed, sharp, keen, "ὀϊστός" Il.4.118..."γλωχίς" S.Tr.681』(原義として、尖った、鋭い、鋭利な、の意。「矢」「〔植物の〕棘」等の用例を挙げる)"ラテン語のamarusは、この地図の西側では一つの親でもある。CNRTL(TLFi)はフランス語amerの語源を『Du lat. amarus, attesté au sens propre dep. Ennius...; au sens fig. dep. Rhét. Her.(ラテン語amarusに由来し、文字義ではEnniusにまで、比喩義ではRhetorica ad Herenniumにまで用例が遡る)』とたどり、書き言葉としての初出を1174年の語義として記録する。
範囲: CNRTL(TLFi)、見出し語amer、Étymologie et historique
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concept-word-amer-fr —has_name_etymology→ "『Du lat. amarus, attesté au sens propre dep. Ennius...; au sens fig. dep. Rhét. Her.』(ラテン語amarusに由来し、文字義ではEnniusにまで、比喩義ではRhetorica ad Herenniumにまで用例が遡るとする)。初出として1174年の『qui a une saveur rebutante(不快な風味を持つ)』の語義を記す。"イタリア語のamaroも同じ親を持つ。Treccani Vocabolarioは見出し語の直後に、注記だけで『[lat. amarus]』と記す。フランス語が幾世紀もの用例を積み重ねて語るのに対し、イタリア語は一つの角括弧でそれを済ませる——同じ祖先でも、辞典が語源をどれだけ語るかは辞典ごとに違う。
範囲: Treccani Vocabolario online、見出し語amaro、語源注記
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concept-word-amaro-it —has_name_etymology→ "見出し語の直後に語源注記『[lat. amarus]』(ラテン語amarusに由来、の意)を記す。"そしてbitterの比喩は、東の「苦難を共にする」とは違う方向へ伸びる。Merriam-Websterは味の語義とは別に『distasteful or distressing to the mind : GALLING(心にとって不快・つらいもの)』『caused by or expressive of severe pain, grief, or regret(激しい苦痛・悲嘆・後悔に起因する、またはそれを表す)』という語義を収める。苦さは、共にするものではなく、一人が抱え込む痛みや後悔の名になる。
範囲: Merriam-Webster Dictionary online、見出し語bitter、形容詞義1bおよび3
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concept-word-bitter-en —is_presented_as→ "『distasteful or distressing to the mind : GALLING』(心にとって不快・つらいもの、の意、義1b)および『caused by or expressive of severe pain, grief, or regret』(激しい苦痛・悲嘆・後悔に起因する、またはそれを表す、の意、義3)"地図の中の飛び地——規格とビールとコーヒーとワイン
辞典の外にも、苦味を名づける地図がある。国際規格ISO 5492は、苦味を『any one of the distinctive tastes: acid/sour, bitter, salty, sweet, umami(酸味・苦味・塩味・甘味・うま味という判然と異なる味のいずれか)』という基本味の一つとして位置づける。
範囲: ISO 5492:2008(en), 用語3.2 basic taste。ISO Online Browsing Platform(OBP)で公開閲覧
注記: Note 1 to entryには『Other tastes that may be classified as basic are alkaline and metallic.』ともある。
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concept-sensory-vocabulary-iso-5492 —is_defined_as→ "『basic taste, noun — any one of the distinctive tastes: acid/sour, bitter, salty, sweet, umami』(基本味とは、酸味/酸っぱさ・苦味・塩味・甘味・うま味という判然と異なる味のいずれかを指す)"同じ規格は苦味そのものを『basic taste produced by dilute aqueous solutions of various substances such as quinine or caffeine(キニーネやカフェインなど各種物質の希薄水溶液によって生じる基本味)』と、感情の言葉を含めずに定義する。東西の辞典が植物や動作から語を起こしたのに対し、規格は参照物質の濃度で語を起こす。
範囲: ISO 5492:2008(en), 用語3.5 bitterness / bitter taste。ISO Online Browsing Platform(OBP)で公開閲覧
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concept-sensory-vocabulary-iso-5492 —is_defined_as→ "『bitterness, noun; bitter taste, noun — basic taste produced by dilute aqueous solutions of various substances such as quinine or caffeine』(苦味は、キニーネやカフェインなど各種物質の希薄水溶液によって生じる基本味)"1979年に発表された国際ビールフレーバー用語体系は、14のクラスと44の一次用語からなる図としてまとめられ、その中で苦味は独立したクラス12「BITTER」に位置づけられている。
範囲: Meilgaard, Reid & Wyborski (1982) Fig. 1『The Flavor Wheel, showing class terms and first-tier terms.』
注記: 原典1979年論文(Meilgaard, Dalgliesh & Clapperton, J. Am. Soc. Brew. Chem. 37:42-52)自体の本文は未確認。1982年論文の図の再録として確認。
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concept-beer-flavor-wheel —is_listed_as→ "『In 1979 (11), the Subcommittees on Sensory Analysis of the European Brewery Convention and the American Society of Brewing Chemists published the International Flavor Terminology System. As illustrated in Fig. 1, this has 14 classes, 44 first-tier terms and (not shown) 78 second-tier terms.』図1の再録では用語『1200 BITTER』がクラス12として、10 SWEET・11 SALTY・13 MOUTHFEELなどと並ぶ一次用語に位置づけられている(1979年発表の国際ビールフレーバー用語体系は14クラス・44一次用語・78二次用語からなり、Bitterはクラス12・一次用語1200として甘味・塩味・口中感などと並ぶ)"コーヒーの官能語彙でも、苦味は独立した位置を持つ。World Coffee Researchのセンサリー・レキシコンは「BITTER」を『The fundamental taste factor associated with a caffeine solution.(カフェイン溶液に結び付けられる基本的な味覚要素)』と定義する。
範囲: World Coffee Research Sensory Lexicon, First Edition (2016), Taste Basics, p.13
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concept-coffee-sensory-lexicon —is_defined_as→ "『BITTER — The fundamental taste factor associated with a caffeine solution.』(苦味は、カフェイン溶液に結び付けられる基本的な味覚要素と定義される)"ところがワインの口中感覚を整理したホイールに渡ると、苦味は地図から姿を消す。本文は赤ワインの口中感覚を酸味・甘味・苦味などの複合と位置づけながら、実際に組み立てられた語群の外周には独立した「Bitter」という項目が無い。苦味が現れるのは、収斂性の派生語である「hard」「sappy」の定義の中だけである。
範囲: Gawel, Oberholster & Francis (2000) Introduction と Figure 2
注記: このホイールは苦味そのものではなく収斂性(astringency)を中心にした口中感語彙の整理を目的とすると明記されている(Abstract, Keywords: astringency, mouth-feel)。
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concept-wine-mouthfeel-wheel —differs_from→ "『'In mouth' sensory properties of red wines, encompass multiple and interacting sensations of acidity, sweetness, bitterness, retronasal aroma perception (flavour), viscosity, warmth, and astringency.』本文はこう位置づける一方、開発されたホイール本体(Figure 2)の外周語には独立した『bitter』という項目名は無く、苦味は astringency 系の派生語である『hard』『sappy』の定義の中にのみ現れる"取り違えの場所——酸味と苦味が重なる
地図には、旅人が方向を見失う場所もある。ある研究の抄録は、英語における酸味と苦味の混同と並んで、スペイン語でもácido(酸っぱい)とamargo(苦い)の混同が見られたと報告する。
範囲: O'Mahony & Manzano Alba (1980) Chemical Senses 5(1):47-62, Abstract
注記: 抄録のみ確認。本文は未確認。
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sensation-bitter —is_documented_as_having→ "『Sour/bitter confusions were noted in English as well as equivalent ácido/amargo confusions in Spanish; the use of the third intermediate Spanish term 'agrio' varied.』(英語における sour/bitter の混同と同様に、スペイン語でも ácido/amargo の混同が見られ、中間的な第三の語 agrio の使用には話者間で差があったと報告)"別の研究の抄録は、英語話者には『sweet』『sour』『salty』『bitter』という四分類を使う傾向があった一方、日本語話者はこれに『Ajinomoto』というグルタミン酸ナトリウムの味を指すラベルを加える傾向があったと報告する。基本の味をいくつの言葉に分けるかという線引き自体、地図によって違う位置に引かれている。
範囲: O'Mahony & Ishii (1986) British Journal of Psychology 77(2), Abstract
注記: 抄録のみ確認。本文(刺激・被験者数の詳細)は未確認。
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sensation-bitter —is_documented_as_having→ "『In English there was a tendency to use a quadrapartite classification system: 'sweet', 'sour', 'salty' and 'bitter'. The Japanese had a different strategy, adding a fifth label: 'Ajinomoto', referring to the taste of monosodium glutamate.』(英語話者には『甘い・酸っぱい・塩辛い・苦い』の四分類を用いる傾向があったのに対し、日本語話者はこれに『アジノモト』というグルタミン酸ナトリウムの味を指す第五のラベルを加える傾向があったと報告)"さらに広い調査は、味という感覚全体の呼びやすさ自体が言語ごとに違うことを示す。ある言語では味は呼びにくい側の感覚に入り、別の言語ではまた異なる序列を示す——優劣ではなく、地図ごとに違う位置づけとして記述されている。
範囲: Majid et al. (2018) PNAS 115(45), Methods と Fig.2 の図注。20言語(手話3言語を含む)313名の話者データ
注記: 市場・言語ごとに味の呼称しやすさが異なりうるという事実の一次資料。
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sensation-bitter —differs_from→ "『the basic taste distinctions of sweet, salty, sour, bitter, and umami were sampled』として調べたところ、『English shows the predicted high codability for color, shape, and sound, and low codability for touch, taste, and smell, but other languages exhibit different hierarchies.』(苦味を含む基本味の呼称しやすさ=コード化しやすさは言語によって異なり、英語では味は呼称しにくい側に入るが、他の言語では異なる序列を示す)"地図の余白に価値がある——弱めた語だけが帯びるもの
地図の中心にある本義は、多くの場所で「嫌な味」だった。ところが本義から少しだけ度合いを弱めた語には、別の価値が宿ることがある。デジタル大辞泉の「ほろ苦い」は『ちょっと苦みがある。なんとなく苦い。』と定義され、用例には「ほろ苦い味わい」と並んで「ほろ苦い初恋の思い出」という、否定的でない使い方が挙げられている。
範囲: デジタル大辞泉「ほろ苦い」項(コトバンク掲載)
注記: 辞典の用例そのものが、味覚の用法と、記憶・感情を形容する比喩の用法を並記している点を記録。出典はコトバンク経由。
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concept-horonigai —is_defined_in_dictionary_as→ "ちょっと苦みがある。なんとなく苦い。用例として「ほろ苦い味わい」(味覚)と「ほろ苦い初恋の思い出」(比喩)の双方を挙げる。"イタリア語のamarognolo(アマロニョーロ)も同じ形をとる。Treccani国語辞典は『Di sapore amaro ma non sgradito(苦い味だが不快ではない)』と定義し、用例として『mi piace l'amarognolo di questo liquore(このリキュールのほろ苦さが好きだ)』を挙げる——好ましさが辞典の用例そのものに組み込まれている。
範囲: Treccani Vocabolario「amarognolo」「-ógnolo」項
注記: 「ほろ」が形容詞「苦い」の前に付く接頭辞であるのに対し、-ognoloはamaro(苦い)の後に付く接尾辞であり位置は逆だが、いずれも基底の苦味語を弱める形態論的しくみを持つ点で構造的に並行する。語源系統上の関連(同一起源)は確認しておらず、比較のための記録である。既存資産ingredient-radicchio-treviso-precoce等のdisciplinare官能記述(sapore leggermente/gradevolmente amarognolo)と同一語。
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concept-horonigai —is_presented_as→ "イタリア語のamarognolo(アマロニョーロ)は、Treccani国語辞典で『di sapore amaro ma non sgradito(苦い味だが不快ではない)』と定義され、減勢を表す接尾辞-ognoloがamaro(苦い)に付く派生語とされる。辞典が挙げる用例は『mi piace l'amarognolo di questo liquore(このリキュールのほろ苦さが好きだ)』であり、苦味を好ましいものとして語る用法が辞典の用例自体に組み込まれている。"中国語圏の茶文化を語る記事も、同じ弱め方をする。回甘・回甜を説明する文脈で使われるのは『入口时清甜微苦涩(入口はさわやかな甘さとわずかな苦渋味)』という言い回しで、「微」という一字が苦味の強さを削り、飲み手が身構えずに受け止められる味に変えている。
範囲: 中国語圏茶文化メディア(既存資産concept-huiganの出典と同一の用例群)
注記: 「微」は「微苦」「微酸」「微甜」のように多くの基本味語へ一般的に前置できる修飾語であり、「ほろ苦い」やamarognoloのように特定の語(苦い)に強く結びついた固定語彙かどうかは、今回のアクセスでは確認できなかった(中国語辞書サイトへの到達に失敗)。未確認は不在の証明ではない。
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concept-horonigai —is_presented_as→ "中国語圏の茶文化メディア記事は、回甘・回甜を説明する文脈で『入口时清甜微苦涩』のように「微」+基本味語という組み合わせで苦味の弱さを表現する。"朝鮮語の地図では、この弱め方が語彙の家系として記録されている。표준국어대사전は「쓰다」を基本の苦味として定義する一方、「씁쓸하다」「쌉싸름하다」の語釈にはいずれも『조금(少し)』という程度を弱める語が含まれ、基本義の語釈には含まれない。程度を弱めることが、別の見出し語を持つに値する区別として扱われている。
範囲: 国立国語院 표준국어대사전 4見出し語(쓰다・쓴맛・씁쓸하다・쌉싸름하다)の語釈比較
注記: 4件の語釈文に共通して現れる語形(조금の有無)を比較したもので、語釈本文を超える解釈は加えていない。
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concept-word-sseuda-ko —differs_from→ "辞典は「쓰다」を基本義の苦味として定義する一方、「씁쓸하다」「쌉싸름하다」はいずれも『조금』(少し)を伴う弱い程度の苦味として、別の見出し語で立てている。"その二つ目の見出し語「쌉싸름하다」の語釈は『조금 쓴 맛이 있는 듯하다.(少し苦い味があるようだ。)』で、類義語として「쌉싸래하다」が添えられる。弱い苦味だけの一角に、複数の語がすでに住んでいる。
範囲: 国立国語院 표준국어대사전 見出し語「쌉싸름하다」(형용사)
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concept-word-sseuda-ko —is_documented_in→ "『조금 쓴 맛이 있는 듯하다.』(少し苦い味があるようだ。)類義語として「쌉싸래하다」が示されている。"そして中国茶の品飲で語られる「回甘」は、弱さを度合いではなく時間で測る。入口でわずかな苦味・渋味を感じたあと、時間の経過とともに甘みが優勢になり、最終的に甘い後味で終わる——地図の同じ角に、強さの弱め方だけでなく、時間による弱め方も置かれている。
範囲: 中国語圏の茶文化メディア記事で繰り返し紹介される説明
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concept-huigan —is_defined_as→ "中国茶の品飲で、入口時にわずかな苦味・渋味を感じた後、時間の経過とともに甘味が優勢になり、最終的に甘い後味で終わる感覚"たどり着けなかった場所
地図はここで途切れる。ベトナム語の辞典、日本語の茶・味噌・醤油・コーヒーの官能用語集など、公的な出典や本文そのものにたどり着けなかった場所は、まだ空白のままにしてある。空白は存在しないという意味ではなく、次に誰かが資料を持ち寄れる余地として残しておく。
関連する項目:「苦い」(日本語) /「苦」(中国語) /「쓰다」(朝鮮語) /「ขม」(タイ語) /amarus(ラテン語) /bitter(英語) /πικρός(ギリシア語) /amer(フランス語) /amaro(イタリア語) /ISO 5492 /ビールのフレーバーホイール /コーヒーのセンサリー・レキシコン /ワインの口中感覚ホイール /ほろ苦い /回甘
関連する主題ハブ: 苦味の言葉
関連する研究ノート: 「苦い」が褒め言葉になる場所
出典台帳: 出典台帳