研究ノート 044 — 2026-09-04
清酒の苦味は誰のせいか——ペプチド説とアミノ酸説
清酒には、独特の苦味があります。この苦味の担い手については、少なくとも二つの説明が文献の中に並んでいます。一つは、蒸米のタンパク質——コメのグルテリン——が麹菌の酵素で切り刻まれて生まれるオリゴペプチドに帰属させる説明です。もう一つは、アルギニンをはじめとする遊離アミノ酸に帰属させる説明です。このノートは、どちらが正しいかを決めるのではなく、両方の説明とその根拠、そして精米歩合・活性炭処理・酵素処理・貯蔵という工程がその苦味をどう動かすかを、並べて見ていきます。
このページの内容(9 節)
この頁でわかること
- 清酒の苦味の担い手には、コメのグルテリン由来のペプチドとする説と、アルギニンなど遊離アミノ酸とする説の、二つの説明が資料に並んでいる。
- 精米歩合を下げると苦味ペプチドが減る傾向は、一つの品種(日本晴)でのみ確かめられており、他の品種では同じ傾向は見られていない。
- 合成清酒にアルギニンを高濃度で加えると苦味や甘味が指摘されやすくなることが、一つの識別試験で示されている。
- ペプチド説とアミノ酸説のどちらがより多く清酒の苦味を説明するかを直接比べた実験は、まだ見つかっていない。
苦味ペプチドという分類は、清酒だけの話ではない
ペプチドが苦味を持つこと自体は、清酒に固有の現象ではありません。チーズについての総説は、苦味を熟成中に進むタンパク質分解の必然的な帰結として位置づけ、分解の進み具合と苦味ペプチドの蓄積との関係を整理しています。
範囲: チーズ苦味に関する総説(1996年)。苦味ペプチドの単離・検出法、物理化学的性質、制御法を扱う。
データを表示
compound-class-bitter-peptides —is_produced_through→ "チーズの苦味は熟成中に進行するタンパク質分解(プロテオリシス)の必然的な帰結として生じるとされ、プロテオリシス活性と苦味ペプチド蓄積との関係が総説として整理されている。"そのペプチドがどう苦味を感じさせるかについても、別の実験系での手がかりがあります。苦味ジペプチドのGly-PheとGly-Leu(25 mM)は、ヒトの苦味受容体の一つhTAS2R1を強く活性化しましたが、味のないGly-Glyは100 mMまで試してもどの受容体も活性化しませんでした。苦味トリペプチドではさらに強い活性化が見られ、最も強かったPhe-Phe-Pheの有効濃度はマイクロモルの単位でした。
範囲: 異種発現細胞カルシウムアッセイ: HEK293(Maehashi 2008)と C6 グリオーマ(Upadhyaya 2010)
注記: 独立2系の細胞アッセイが同一受容体を指す。in vivo での寄与度は未確定。
データを表示
compound-class-bitter-peptides —activates→ receptor-tas2r1閾値の桁も、他のペプチドで報告があります。精製・合成したチーズ由来ペプチド12種は明瞭な苦味を示し、認知閾値は0.05から6.0ミリモル毎リットルの範囲でした。最も低かったのは、カフェインに似た苦味質を持つデカペプチドYPFPGPIHNSで、0.05ミリモル毎リットルでした。
範囲: 熟成ゴーダチーズから精製・合成したペプチド
注記: 閾値測定法・パネル人数は抄録に記載なし。
データを表示
compound-class-bitter-peptides —has_recognition_thresholds_of→ "0.05-6.0 mmol/L(合成・精製した12ペプチドが明瞭な苦味)。最低閾値はデカペプチド YPFPGPIHNS の 0.05 mmol/L でカフェイン様の苦味質"ただし、一本のペプチドに責任を負わせるのは難しい
タンパク質を丸ごと消化した混合物では、複数の受容体が同時に反応します。カゼインをトリプシンで消化した苦味画分には、hTAS2R1・hTAS2R4・hTAS2R14・hTAS2R16の発現細胞が応答し、特にhTAS2R1とhTAS2R4の応答が強く出ました。ただしこの画分には構造の異なる多数のペプチドが混ざっており、苦くないペプチドも含まれている可能性が高いと、実験を行った著者自身が明記しています。
範囲: HEK293 異種発現、カルシウムイメージング
注記: 画分は多数のペプチド混合物であり、個々のペプチドと受容体の対応はこの実験だけでは特定できない(limits 参照)。
データを表示
compound-class-bitter-peptides —activates_multiple_members_of→ receptor-tas2r-family特定の一本のペプチドを苦味の目印として使うことにも、限界が報告されています。チーズの苦味と結び付けられてきたβ-CN f193-209というペプチドの濃度は、熟成180日の時点では官能的な苦味強度と相関係数0.803で相関しましたが、270日の時点では0.554まで下がりました。このペプチドは唯一の原因ではなく、部分的な目印にとどまるという評価です。
範囲: 低脂肪チェダーチーズ(Broadbent 2002)。苦味との関連は同論文が先行文献から引用
注記: 苦味との関連づけ自体は Broadbent 2002 が先行文献(同論文 refs 4・28)を引用する形で、本論文内での閾値測定はない。
データを表示
compound-class-bitter-peptides —includes_chymosin_derived_member→ "β-CN f193-209: チーズの苦味と関連づけられてきたキモシン由来ペプチド。lactocepinでは加水分解されず、スターター間で濃度差なし(0.3-0.9 mg/g, P>0.5)。αs1-CN f1-9 との併用で苦味化傾向の予測指標(r=0.84)が提案されている"別のチーズ研究でも、同じ難しさが指摘されています。個々のペプチドの濃度と苦味スコアの相関は弱く(相関係数0.56から0.58)、二つのペプチドを組み合わせた指標でようやく0.84まで上がりました。この研究の著者は、ほかにも苦味に寄与するペプチドが確かにあるはずだと記しています。
範囲: 熟成ゴーダとエイジドシャープチェダー(水溶性抽出物)
注記: 個別ペプチド単独の説明力は限定的: Broadbent 2002 では単一ペプチド濃度と苦味スコアの相関は r=0.56-0.58 にとどまり、2ペプチド併用指標で r=0.84(limits 参照)。
データを表示
ingredient-cheese —derives_bitterness_in_part_from→ compound-class-bitter-peptidesそれでも、複数のペプチドをまとめて添加する再現実験は成功した例があります。熟成した本物のシャープチェダーの苦味を主に担うと分析された5種のペプチドを、同じ濃度で若いマイルドチェダーに加えたところ、苦味の強さは本物のシャープチェダーと有意差がないところまで再現されました。中でも主な寄与を持つと分析されたのはGPVRGPFPIIVで、熟成中に28.7倍まで増えていました。
範囲: エイジドシャープチェダー 対 ヤングマイルドチェダー。味の再構築実験
注記: 配列は抄録の記載通り(残基番号は抄録にないため書かない)。
データを表示
compound-class-bitter-peptides —reconstitute_bitterness_of→ ingredient-cheese清酒では、コメのグルテリン由来ペプチドが候補に挙がっている
清酒に戻ると、蒸米タンパク質——コメのグルテリンの酸性サブユニット——が麹菌の酵素で消化されて生まれるオリゴペプチドが、清酒の呈味に関与している可能性を示す研究があります。その構造や検知閾値・認知閾値の細部は、別の研究ノート「発酵は苦味を作ってから壊す」で扱いました。ここでは、そのペプチドの量が醸造の工程でどう動くかを見ます。
コメを削るほど(精米歩合を下げるほど)、この高分子ペプチドの量がどう動くかは、品種によって答えが違いました。日本晴では精米歩合が下がるにつれて高分子ペプチドの量が減る傾向が見られましたが、山田錦・五百万石ではそのような傾向は見られませんでした。
範囲: 精米歩合を90-40%に段階的に調製した3品種の蒸米消化試験で、日本晴では精米歩合が低下する(高精米になる)につれて高分子ペプチド量が減少する傾向が見られたが、山田錦・五百万石ではそのような傾向は見られなかった。
注記: 橋爪(2008)第4図。精米歩合と苦味ペプチド生成の関係は原料米品種に依存し、一様ではないことを示す実測データ。麹菌(RIB128株)による消化試験(pH4.3, 37℃, 1-2日静置)に基づく。
データを表示
compound-class-sake-glutelin-peptides —are_not_uniformly→ "精米歩合(90-40%)による蒸米タンパク質消化物中の高分子ペプチド生成量の変化"醸造後の活性炭処理も、このペプチドの量を動かします。活性炭素処理量を200・500・1000 mg/lと増やすほど清酒中のペプチド濃度は下がり、1000 mg/l処理では大部分が検出限界未満になりました。精米歩合40%の無処理の大吟醸ではあるピークが10.5から12.1ミリモル毎リットルだったのに対し、市販の普通酒A-Cでは0.8から3.5ミリモル毎リットルと低い値でした。
範囲: 活性炭素処理量(200/500/1000 mg/l)を増やすほど清酒中のペプチド濃度(ピーク13,17,18,20)は低下し、1000mg/l処理では大部分が検出限界未満になった。無処理の大吟醸(2001-2004年産,精米歩合40%)ではピーク13が10.5-12.1mMだったのに対し、市販普通酒A-Cでは0.8-3.5mMと低かった(活性炭使用量が多い普通酒ほど低い傾向と整合)。
注記: 橋爪(2008)第4表。平均値±標準偏差(3回測定)。
データを表示
compound-class-sake-glutelin-peptides —is_reduced_by→ "活性炭処理"酵素を使った処理では、苦味を減らす効果と別の変化がセットで起きることが報告されています。高い酸性カルボキシペプチダーゼ活性を持つ酵素剤を清酒に添加すると苦味ペプチドが減り、別の短鎖ペプチド(pGlu)L-エチルが増えました。一方、別の性質を持つ酵素剤では、増えるペプチドの種類が変わりました。カルボキシペプチダーゼ型活性を示す酵素については、「苦味ペプチドの低減に寄与する一方で,呈味の優れないジペプチドの生成に関わる」という記述もあります。
範囲: 令和4年における酒類の研究業績(醸協118巻4号p.220)が紹介する橋爪ら(発表年未確認、原著未読了)の要旨によれば、高いACP活性を持つペプチダーゼ剤の添加は清酒の苦味ペプチドを低下させ,(pGlu)L-エチルを増加させたと報告されている。一方、(pGlu)ペプチドエチルエステル生成活性が高くACP活性が低い酵素剤の添加では、清酒中の(pGlu)LF-エチル及び(pGlu)LFNP-エチルが増加し((pGlu)L-エチルは増加せず),これらオリゴペプチドエチルエステルの増加が清酒の味わいに良い効果を与えることが示唆されたと報告されている。同誌p.233の橋爪ら別報要旨は,カルボキシペプチダーゼ型活性を示す酵素について『苦味ペプチドの低減に寄与する一方で,呈味の優れないジペプチドの生成に関わる』と明記しており,苦味低減にも品質面のトレードオフが伴いうることを示唆する。
注記: 原著未読了。抄録誌(編集部による要約)からの二次引用。同一のペプチド系統に対する酵素処理でも、『苦味ペプチドの低減=望ましい』という扱いと、『エステル化誘導体の増加=味わいに良い効果』という扱いが併存しており、苦味に対する扱いの二面性を示す一例として収載する。ACP活性が高い酵素剤の添加自体も苦味ペプチド低下と(pGlu)L-エチル増加という二面的な効果を伴う(醸協118(4)p.233の橋爪ら別報要旨も参照)。
データを表示
compound-class-sake-glutelin-peptides —has_bitterness_quality_reduced_by→ "高い酸性カルボキシペプチダーゼ(ACP)活性を持つペプチダーゼ剤の清酒への添加"貯蔵という時間そのものも、苦味を動かします。火入れ(加熱殺菌)した清酒は、貯蔵に伴って苦味と刺激味(なめらか)が増加し、渋味と刺激味(あらい)が減少すると記録されています。同じ表の生酒(火入れ前)の項目には、苦味の増減は記載されていません。
範囲: 宇都宮ほか(2006)第4表(清酒の貯蔵に伴う香味変化を表す評価用語)により,火入れした清酒では貯蔵に伴い味『苦味,刺激味(なめらか)』が増加し,『渋味,刺激味(あらい)』が減少するとされる。同表の生酒(火入れ前)の項目には苦味の増減は記載されていない。
注記: 老香・生老香を除く貯蔵香味変化表(第4表)に基づく。生酒と火入れ酒とで貯蔵に伴う苦味の挙動が書き分けられている点に注意。
データを表示
ingredient-sake —has_perceived_bitterness_affected_by→ "増加:火入れ(加熱殺菌)した清酒の貯蔵"ただし、ペプチドがすべて苦味の方向にだけ働くわけではありません。清酒のペプチドについては、官能的に良好な寄与をするという報告も紹介されています。この記述は引用元を直接確認できておらず、指しているペプチドがグルテリン由来の苦味ペプチドと同じものかどうかもはっきりしません。
範囲: 清酒のペプチドについては,官能的に良好な寄与をすると報告されている(先行研究の紹介)。
データを表示
ingredient-sake —has_positive_sensory_attributes→ compound-class-bitter-peptides遊離アミノ酸という、もう一つの説明
清酒の苦味を、ペプチドではなく遊離アミノ酸に帰属させる説明もあります。ある総説は、日本酒の独特の苦みをバリン・イソロイシン・ロイシン・プロリン・アルギニンに由来するとまとめています。この総説には、引用番号や個別の定量・官能試験データは示されていません。
範囲: 『日本酒の独特の苦みは,バリン,イソロイシン,ロイシン,プロリン,アルギニン由来であるとされる』との総説記述。
注記: 小川(2015)総説p.336の記述。明示的な引用番号を伴わない一般的整理として提示されており、個別の定量・官能データはこの文献内には無い。
データを表示
ingredient-sake —has_bitterness_attributed_to→ "バリン,イソロイシン,ロイシン,プロリン,アルギニン"この説明の一部を検証した実験もあります。エタノール・糖・酸・塩・香気成分を配合した合成清酒に、市販清酒中のアミノ酸濃度の10倍にあたる1500ppmのアルギニンを加え、無添加のものと飲み比べる3点識別試験を行うと、25回中23回で正しく識別されました(有意水準0.1%)。3点嗜好試験では、アルギニンを加えた方に「苦味,甘味」という指摘が多く挙がり、有意水準0.1%で望ましくないアミノ酸と判定されました。ただしこの1500ppmは天然の清酒中濃度の10倍という高い条件で、パネルは訓練を受けていない少人数の学生・教官が中心でした。
範囲: 純合成清酒(20%エタノール、グルコース、コハク酸、乳酸、NaCl、KH2PO4、イソアミルアルコール、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルを配合)に市販清酒中アミノ酸濃度の10倍(1500ppm)のアルギニンを添加した3点識別試験で23/25正解(有意水準0.1%)。3点嗜好試験ではアルギニン添加区は『苦味,甘味』の指摘が多く,有意水準0.1%で官能的に望ましくないアミノ酸と判定された。
注記: 岩野ほか(2004)。パネルは教官3名・卒論生2名の計5名×5反復=25回判定という小規模・未訓練パネル。天然清酒中濃度の10倍という高濃度条件での検討であり、通常濃度での寄与の大きさを示すものではない。英語要旨は『Arginine was judged as the amino acid causing bitterness』と明記。
データを表示
ingredient-sake —has_perceived_bitterness_associated_with→ compound-arginineアルギニンが苦味の候補として挙がるのは、清酒だけの話でもありません。2時間浸漬・36時間発芽・約130℃で40分焙煎したごまペーストでは、アルギニンの含有量は100グラムあたり90.82ミリグラム、TAV(呈味への寄与の目安)は1.82と報告され、苦味の候補成分の一つに挙げられました。ただしこの報告には官能試験の方法が示されておらず、TAVは食品というマトリクスの中での因果関係を確定するものではありません。
範囲: 2時間浸漬・36時間発芽・130℃約40分焙煎後のペーストSG2-36
注記: ArgのTAVは1超だったが、現論文の官能試験設計は提示されず、『最も苦い』は先行実験の記述に依存する。
データを表示
seasoning-germinated-sesame-paste —has_candidate_bitterness_contributors→ compound-arginine雑味という語、淡麗辛口という言い回し
清酒の香味を語る言葉の中には、苦味そのものではなく苦味を含む複合語もあります。「雑味」という語の定義と、標準用語からの扱い、苦味ペプチドとの結び付き方については、別の研究ノート「発酵は苦味を作ってから壊す」で扱いました。ここではペプチド説とアミノ酸説という対立の方に絞ります。
清酒の原料米をめぐる業界の動向にも、この対立は関わっています。低タンパク質の原料米が求められる背景には、酒質の淡麗化や吟醸タイプ清酒の増加があるという説明があります。
範囲: 『低タンパク質質の原料米が求められる背景には,酒質の淡麗化や吟醸タイプ清酒の増加があると考えられる』との研究動機の説明。
注記: 橋爪(2008)はじめに(p.574)の記述。著者による業界動向の背景説明であり、言説的整理として扱う(数値的な検証は本文中に無い)。
データを表示
ingredient-sake —is_associated_with→ "低タンパク質の原料米を求める業界動向(酒質の淡麗化・吟醸タイプ清酒の増加)"同じ総説は、近年の香り高く味が淡い嗜好、いわゆる淡麗辛口嗜好から吟醸酒の注目度が増していると述べ、「米白ければ酒にくせなし」という言葉を添えています。ただしこの「くせ」は苦味や雑味を名指しした語ではなく、酒質の淡さや純度を指す一般的な言い回しです。
範囲: 『近年の香り高く味が淡い嗜好,いわゆる淡麗辛口嗜好からの吟醸酒の注目度が増している。まさに“米白ければ酒にくせなし”である。』
注記: 小川(2015)総説p.331による言説的整理。『くせ』は苦味や雑味を名指ししたものではなく,精米歩合と味の淡さ一般を結び付けた慣用句として引用されている点に注意。苦味を直接語る言説ではないため,関連文脈として弱い接続にとどめる。
データを表示
ingredient-sake —is_associated_with→ "淡麗辛口嗜好(近年の香り高く味が淡い嗜好)"正直な注記
- 酵素剤(酸性カルボキシペプチダーゼ)についての記述は、原著論文を直接確認しておらず、抄録の言い回しをそのまま要約したものです。
- 合成清酒でのアルギニン試験は、天然の清酒中濃度の10倍という高い条件下のもので、パネルも訓練を受けていない少人数でした。
- 精米歩合の実験は3品種のみの比較であり、他の品種への一般化はできません。
- チーズ由来ペプチドの受容体活性化・閾値・単一ペプチドへの帰属の弱さについての知見は、清酒のペプチドそのものを直接測定したものではなく、比較のための文脈情報として並べています。
- ペプチド説とアミノ酸説のどちらが清酒の苦味をより多く説明するかを決める直接比較の実験は、この目録の範囲では見当たりません。
よく問われること
精米歩合を上げれば清酒の苦味は減るのか
蒸米のタンパク質を段階的に消化させた実験では、日本晴という品種で精米歩合を下げる(高精米にする)ほど苦味ペプチドの量が減る傾向が見られた。ただし同じ実験で山田錦・五百万石という別の二品種では、その傾向は見られなかった。つまり精米歩合と苦味ペプチドの関係は、品種によって答えが変わる。この実験は少数の品種の比較にとどまり、他の品種でどうなるかはまだ確かめられていない。精米歩合が遊離アミノ酸側の苦味にどう働くかも、この資料には含まれていない。
日本酒は保存すると苦くなるのか
火入れ(加熱殺菌)した清酒を貯蔵した記録では、貯蔵に伴って苦味と刺激味(なめらか)が増加し、渋味と刺激味(あらい)が減少すると整理されている。一方、火入れ前の生酒についての同じ記録には、苦味の増減そのものが記載されていない。つまり火入れの有無で答えが変わる可能性があり、生酒の貯蔵と苦味の関係はこの資料からは分からない。苦味が増える原因がペプチドの変化なのかアミノ酸の変化なのかも、この記録だけでは確かめられていない。
分かっていないこと
- 貯蔵によって清酒の苦味が増えるとき、その変化がペプチドの増減によるものか遊離アミノ酸の増減によるものかは、この記録だけでは確かめられていない。
- 酵素処理で苦味ペプチドを減らす操作が、遊離アミノ酸側の苦味をどう動かすかは、まだ確かめられていない。
- チーズ由来ペプチドで報告されている受容体の反応や苦味の閾値が、清酒中の苦味ペプチドの実際の濃度と比べてどの程度の強さにあたるかは、この資料からは分からない。
- バリン・イソロイシン・ロイシン・プロリンが清酒の中でどの程度苦味に寄与するかを個別に確かめた実験は、この目録には見つからなかった。
関連する項目:清酒 /清酒のグルテリンペプチド /苦味ペプチド /アルギニン /雑味
関連する主題ハブ: 苦味・渋味・えぐみ
関連する研究ノート: 発酵は苦味を作ってから壊す——味噌・醤油・清酒 /規格は苦味を公認し、売り場は苦味を選ぶ /「苦い」の地図——一語から東と西へ
出典台帳: 出典一覧
この頁の引用のしかた
青木大(NIGAMI LAB)(2026). 清酒の苦味は誰のせいか——ペプチド説とアミノ酸説. https://nigamilab.com/notes/sake-bitterness-debate/
主張ごとの固定リンクは各カードの #clm-… です。データは CC BY 4.0、配布は データを使う。 データセットの DOI: 10.5281/zenodo.22739101