研究ノート 035 — 2026-09-04
回甘——苦味のあとに甘さが来る茶の時間
回甘は「甘い後味」と同じなのか。資料で繰り返される説明は、入口のわずかな苦味・渋味から、時間とともに甘味が優勢になる流れを含む。単に甘味が残るというだけでなく、何のあとに、どこで、どう変わったかを含む言葉として読まれている。その隣に生津・喉韵・回甜が並ぶが、四語の境界は資料間で一致していない。このノートは、回甘という時間経過そのものではなく(それは苦味一般の時計として別のノートが扱っている)、この語彙が茶という一つの飲みものの中でどう名指され、どう説明が試みられ、そして緑茶・烏龍茶・プーアル茶・抹茶・玉露・ほうじ茶それぞれの苦味と渋味が、栽培・浸出・火入れ・発酵という工程でどう動くかを、資料の言葉のまま追う。
このページの内容(8 節)
この頁でわかること
- 回甘・生津・喉韵・回甜は茶文化を扱う記事で説明されるが、語の境界は記事間で揺れている。回甘は査読論文の背景説明にも現れるものの、その一文は実験から導かれた操作的定義ではない。
- 回甘を感じやすい被験者群では、唾液のタンパク質量とリパーゼ活性が回甘の強さと相関することが、一つの研究で報告されている。
- 緑茶の苦味はEGCG・ECGなどの濃度と、渋味はECGやフラボノール配糖体の濃度と、それぞれ相関することが一つの定量研究で測られている(苦味はR²=0.7769、渋味はR²=0.7878)。
- なぜ苦味のあとに甘みが遅れて来るのかという仕組みそのものは、まだ確定していない。
回甘・生津・喉韵・回甜——似た四つの語
四語を辞書のように固定するのではなく、採用した資料が「いつ」「どこで」「何が起こる」と書いたかを並べる。空欄は、その特徴がないという意味ではなく、その資料からは決められないという意味である。
| 語 | 採用資料が置く時間 | 主に書かれる部位 | 採用資料での中心 | 資料上の注意 |
|---|---|---|---|---|
| 回甘(茶文化記事) | 苦味・渋味のあと | 口 | 甘味が優勢になり、甘い後味へ終わる | 査読を経ていない記事の説明 |
| Huigan(査読論文の背景) | 茶を飲んだあと | 口と喉 | 甘い味が持続する | 実験から導かれた操作的定義ではない |
| 生津 | 茶を飲んだとき | 両頬、歯と頬の間、舌面、舌下 | 唾液が生じる現象 | 部位別の細分類は茶業者記事の記述 |
| 喉韵 | 茶湯が喉を通ったあと | 喉 | 甘さ、潤い、不快さを含む分類 | ある記事では甘い喉韵を回甘と呼び、境界が重なる |
| 回甜 | わずかな苦味のあと | 口 | 甘味が徐々に現れる | 回甘との区別は一つの記事の整理 |
| 甘い後味 | 飲んだあと | 特定しない | 甘味が残るという一般的な記述 | この表で比較のために置く一般語で、正式な品飲語ではない |
茶文化記事が説明する回甘は、甘い結果だけでなく、苦味・渋味から甘味へ移る順序を含む。一方、査読論文の背景説明は苦味・渋味を必要条件にせず、口と喉に続く甘い味として記す。喉の甘さを回甘と呼ぶ記事もあり、部位だけで四語を完全には分けられない。表は唯一の正解を定めるものではなく、資料同士の一致と不一致を見えるようにするためのものである。
回甘という語は、茶文化を扱う記事の中で繰り返し、入口の微かな苦味・渋味が時間とともに甘みへ道を譲り、最後は甘い後味で終わる感覚として説明される。
範囲: 中国語圏の茶文化メディア記事で繰り返し紹介される説明
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concept-huigan —is_defined_as→ "中国茶の品飲で、入口時にわずかな苦味・渋味を感じた後、時間の経過とともに甘味が優勢になり、最終的に甘い後味で終わる感覚"生津は、茶を飲んだときに唾液が生じる現象として説明される。茶の成分が複数の唾液腺を刺激するという説明も同じ記事にあるが、これは語の意味そのものではなく、記事が添えた仕組みの説明である。
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concept-sheng-jin —is_defined_as→ "茶を飲んだ際、茶中の有機酸などの成分が顎下腺・耳下腺・舌下腺を刺激し、唾液分泌を促す現象"この生津は、感じる部位によってさらに細かく名づけられる。両頬、歯と頬の間、舌の表面、そして舌の下から湧くように感じる場合とで、それぞれ別の呼び名が茶業者の解説記事に並ぶ。
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concept-sheng-jin —has_sensory_attribute→ "感じる部位によって、両頬生津・歯頬生津・舌面生津・舌底鳴泉(舌下生津)の4種に分けて語られる"喉韵は、茶湯が喉を通過したあとに喉で感じる感覚を指す語として説明される。
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concept-hou-yun —is_defined_as→ "茶湯が喉を通過した後、喉部で感じる感覚"この喉韵はさらに三つに分けて語られる。収斂や刺激が消え唾液が出て喉が潤い甘く感じられる状態、喉頭が潤って渇きが消える状態、そして喉頭が不快で気分を害する状態である。
範囲: 普洱茶の品飲語彙として
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concept-hou-yun —has_sensory_attribute→ "甘(収斂・刺激が消え唾液が出て喉が潤い甘く感じられる)・润(喉頭が潤い口渇が消える)・燥(喉頭が不快で気分を害する)の3種に分けて語られる"回甜は、入口のわずかな苦味のあと、口の中で甘味が徐々に現れる感覚として一つの記事で説明される。同じ記事は回甘と回甜を別の作用として区別する。ただし、これはその記事の整理であり、四語に共通する確立済みの区分ではない。
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concept-hui-tian —is_defined_as→ "熟普洱茶などで、入口時にわずかな苦味を感じた後、口腔内で甜味が徐々に湧き上がる感覚"データを表示
concept-hui-tian —is_not_synonymous_with→ concept-huiganところが四つの語すべてが、資料の間できれいに切り分けられているわけではない。ある茶業者の記事は、喉韵の「甘」を説明する文の末尾で、その感覚をそのまま回甘と呼び、別の記事は回甘の別称が喉韵であると冒頭で述べる。四つの語は、隣り合う語同士がところどころ重なり合ったまま流通している。
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concept-huigan —has_unresolved_property→ "「回甘」と「喉韵の甘」が、茶業界の資料で同一の感覚として説明されることがある"回甘は、苦味が単に残っているだけの後味とも区別される。回甘の定義そのものが、時間の経過とともに甘みが苦渋味を追い越し、最終的に甘みで終わるという時間の構造を明示しており、苦味がそのまま残って消えていくだけの後味とは別の出来事として語られている。
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concept-huigan —differs_from→ concept-bitter-aftertaste分かっていないこと
言葉の境界
- 回甘・生津・喉韵・回甜という四つの語は、いずれも学術論文ではなく査読を経ていない茶文化メディアの記事によって定義が説明されており、語の境界そのものが記事ごとに揺れている。回甘と喉韵の「甘」がどこまで同じ現象を指すのかは、この語彙の内部では決着していない。転載・共有文言がある記事を独立した一致とは数えない。
仕組み
- 回甘を説明する膜形成・多糖分解・対比適応という三つの説明は、いずれも口腔内での直接観察や、茶を対象にした一次的な検証実験を伴わない、記事が紹介する通説として提示されている。
測り方
- 唾液の総タンパク質量・リパーゼ活性・摩擦係数と回甘の相関を示した研究は、いずれも少人数の被験者群を対象にしたものであり、相関関係であって、何が何を引き起こしているかまでは確定していない。
- 回甘のヒトを対象にした官能研究の多くは、嚥下後の単一の時点で強度を評点する方法にとどまり、時間の経過を連続的な曲線として追う方法で、茶の回甘を測った例は見当たらない。
- 鉄観音の浸出条件の研究は、苦味と渋味を一つの複合属性として評価しており、どちらの感覚がどれだけ動いたかを個別に分けられない。
甘さの遅れを、どう説明するか
回甘という現象そのものより厄介なのは、なぜ苦渋味の後に甘みが来るのかという説明の方である。ある記事は、茶ポリフェノールが唾液タンパク質と結びついて口の中に膜を作り、それが収斂・苦渋味として感じられ、この膜が破れて口腔の筋肉が緩んだときに回甘・生津が生じる、という説明を紹介する。
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concept-huigan —has_currently_proposed_mechanisms→ "茶ポリフェノールが唾液タンパク質と結合して口腔内に膜を作り収斂・苦渋味として知覚され、膜が破れると口腔筋が弛緩して回甘・生津を感じる、とする説(渋感転化説)"別の記事は、茶に含まれる多糖そのものは甘くないが、粘りによって口の中に留まり、唾液のアミラーゼによって甘いマルトースへ分解されるまでの時間差が回甘を生む、という説明を挙げる。
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concept-huigan —has_currently_proposed_mechanisms→ "茶多糖はそれ自体は甘くないが粘性により口腔内に留まり、唾液アミラーゼによって甘いマルトースへ加水分解される時間差が回甘を生む、とする説"さらに別の記事は、苦味と甘みへの感覚順応が進むにつれ、背景にあった甘みが相対的に強く感じられるようになる、という対比の説明を紹介する。三つの説明はいずれも、口の中の膜・酵素・感覚順応という別々の場所に回甘の由来を置いており、資料の間で一本化されていない。
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concept-huigan —has_currently_proposed_mechanisms→ "苦味・渋味刺激への感覚順応が進んだ後、背景にあった甘味が相対的に強く知覚される、とする対比効応説"茶とヒトの唾液を組み合わせた研究では、回甘を感じやすいと判定された被験者の群で、唾液の総タンパク質量とリパーゼ活性が回甘の強さと有意な正の相関を示した。
範囲: Huigan感受性群として選ばれた被験者6名、緑茶由来化合物(L-テアニン、トリロバチン、EC/EGC混合、対照は蒸留水)を用いた官能・生化学試験
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concept-huigan —is_correlated_with→ "唾液の総タンパク質量(TPC)およびリパーゼ活性(LP)(回甘感受性が高いと判定された被験者群において)"同じ被験者群を対象にした唾液と茶成分混合液の摩擦係数の測定でも、回甘の強さは、とくにすべり速度が遅い条件で摩擦係数と強く相関した。
範囲: 24名でのスクリーニング後に選ばれた感受性群6名・非感受性群6名によるin vitroトライボロジー測定
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concept-huigan —is_correlated_with→ "唾液と茶成分混合液の摩擦係数(すべり速度0.5 mm/s未満で特に、回甘感受性が高い被験者群において)"どの化合物が回甘を引き起こしやすいかを比べた実験では、エピカテキンとエピガロカテキンの混合水溶液が、回甘に感受性の高い被験者群でもっとも強い回甘の評点を示し、他の試料と有意差があった。
範囲: EC 400 ppmとEGC 100 ppm(4:1比)の混合水溶液。L-テアニン200 ppm・トリロバチン30 ppm・蒸留水対照と比較。Huigan感受性群での評点は口腔期5.2±1.3、口腔咽頭期5.2±1.0(p<0.05で他サンプルと有意差)
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compound-ec —is_correlated_with→ concept-huigan緑茶・鉄観音・プーアル——茶の種類ごとの苦渋
緑茶の浸出液では、苦味と渋味は別個の主要な品質属性として位置づけられる。
範囲: 淹れた緑茶
注記: 強度は茶葉と淹れ方に依存する。 / 2026-08-31: 支持根拠に全文確認由来がないため established から supported へ較正降格。全文確認後に再昇格可。
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ingredient-green-tea —has_sensory_attribute→ sensation-bitter範囲: 淹れた緑茶
注記: 両者を駆動する化合物が重なる場合でも、苦味とは別に保持する。 / 2026-08-31: 支持根拠に全文確認由来がないため established から supported へ較正降格。全文確認後に再昇格可。
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ingredient-green-tea —has_sensory_attribute→ sensation-astringent烏龍茶の一種である鉄観音では、茶水比・湯温・浸出時間・抽出回数という浸出条件そのものが、苦味と渋味を合わせた属性の強さを左右する。高い茶水比、低い湯温、短い浸出時間の組み合わせで、この複合属性は有意に低くなった。
範囲: 鉄観音を用いた直交回帰設計と訓練パネル
注記: 評価項目はbitterness-astringencyという複合属性。苦味と渋味を個別に変えたとは言わない。
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ingredient-tieguanyin-infusion —has_bitter_astringency_affected_by→ "茶水比、湯温、浸出時間、抽出回数"プーアル茶の堆積発酵を追跡した研究では、発酵の終点で、原料と比べて苦味と渋味がいずれも有意に低くなった。
範囲: 古樹由来日晒青毛茶の一つの36日発酵時系列
注記: RMとF4の比較。一発酵系の時系列であり、発酵一般の因果効果や効果量ではない。
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process-tea-pile-fermentation —was_observed_with→ "36日終点で原料より低い苦味と渋味"同じ発酵の終点では、甘みが有意に高まり、色は黄緑から赤褐色へ変わり、香りは原文でfreshからstaleと記された方向へ変化した。堆積発酵という工程は、苦味と渋味を下げると同時に甘みを上げる、という形で茶の味の全体を動かしている。
範囲: 同じ36日発酵の9名訓練パネル
注記: 複数属性が同時観察された。糖、色素、微生物の相関を各変化の単独原因へ変換しない。
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process-tea-pile-fermentation —was_observed_with→ "甘味の上昇、赤褐色化、原文でstale aromaと呼ばれた香りへの変化"抹茶・玉露——覆いが動かす苦渋
抹茶は、被覆栽培した茶樹の新芽を原料とする。ある資料は、被覆にともない含量が下がるのは苦渋味の弱いエピガロカテキンであり、苦渋味の強いエピガロカテキンガレートの含量低下はほとんど見られない、と記す。
範囲: 碾茶を原料とする抹茶(被覆栽培)
注記: 農研機構の学会講演要旨【目的】段落の背景記述であり、この要旨自体が実施した新規測定データではなく、既往知見のまとめとして述べられている(引用文献番号は要旨中に示されていない)。数値(EGC・EGCGそれぞれの含有量の変化率等)は本要旨には記載されていない。
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ingredient-matcha —has_composition→ "被覆栽培に伴い含量が低下するのは苦渋味の弱いエピガロカテキン(EGC)であり、苦渋味の強いエピガロカテキンガレート(EGCG)の含量の低下はほとんど認められないとされる。"官能審査に用いられる点て方に準じて抹茶を調製した場合、テアニン・カフェイン・エピガロカテキンの浸出率は高い一方、エピガロカテキンガレートの浸出率は低く、浸出液中の濃度は他の茶の官能審査液より低かった。
範囲: 抹茶(官能審査に用いられる方法に準じて調製)
注記: 遠心分離した上清をキャピラリー電気泳動法・高速液体クロマトグラフィで直接分析した実測値。
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ingredient-matcha —has_composition→ "官能審査に用いられる点て方に準じて調製した抹茶浸出液への成分浸出率は、テアニン・カフェイン・EGCが80%以上であったのに対し、EGCGは50%以下で、浸出液中のEGCG濃度は煎茶等の官能審査液よりも低かった。"抹茶を点てる際に茶筅を激しく振ることで湯温が急に下がり、温度依存性の高いエピガロカテキンガレートの湯への溶出が妨げられるため、点てた抹茶浸出液は茶葉成分の含量から予想されるほどの苦渋味を示さない、という考察もある。
範囲: 抹茶(官能審査に用いられる方法に準じた点て方)
注記: 著者ら自身の考察(interpretation)であり、湯温そのものを直接測定した実験や、苦渋味の官能評価を伴う因果実験は本要旨には示されていない。浸出率の実測データ(EGCGのみ低い)から導かれた解釈。
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ingredient-matcha —has_perceived_bitterness_suppressed_by→ "抹茶を点てる際に茶筅を激しく振ることが招く湯温の急激な低下。温度依存性の高いEGCGの湯への溶出が妨げられるため、点てた抹茶浸出液は茶葉成分中の含量から予想されるほどの苦渋味を示さないと著者らは考察している。"玉露では逆の動きが観察されている。被覆資材を外したあとの露光時間が長くなるほど、遊離アミノ酸とテアニンの含有量は減り、カテキン類の含有率は増える。標準審査法による官能評価でも、露光時間が長いほど内質は劣る方向に傾いた。抹茶が覆いを保って苦渋味の弱いカテキンを減らす一方、玉露は覆いを外した瞬間から苦渋味の強いカテキンが増える方向へ動く。
範囲: 福岡県農業総合試験場八女分場、玉露'やぶきた'・'おくゆたか'、2006年圃場試験(3反復)
注記: 対象は玉露であり、碾茶(抹茶原料)そのものではない。ただし玉露と碾茶は同じ覆い下栽培の技術群に属し、遮光→アミノ酸/カテキン組成の変化という同じ機構を扱う。官能評価は標準審査法の『滋味』等の総合項目であり、苦味だけを分離した尺度ではない点に留意。
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ingredient-gyokuro —has_composition→ "被覆資材除去後の露光時間(0/1/2/4/6時間)が長くなるほど、荒茶中の遊離アミノ酸・テアニン含有量は減少し、カテキン類(EC+ECG+EGC+EGCGの合計)含有率は増加した。品種'やぶきた'ではテアニンが被覆状態2224 mg/100gから露光6時間後1983 mg/100gへ減少し、カテキン類は9.4%から10.3%(乾物重)へ増加した。覆い香の主要成分ジメチルスルフィド(DMS)は露光1時間後には被覆状態の55%程度(やぶきた)・88%程度(おくゆたか、露光2時間後)まで減少した。標準審査法による官能評価(滋味など内質)は露光時間が長くなるほど劣る傾向を示した(やぶきた合計差: 露光1時間-0.7点、露光6時間-3.2点)。"火入れ——煎茶とほうじ茶で苦味は焦げる
ほうじ茶では、焙煎の程度を深めるほど、一番茶・刈番茶・二番茶のいずれでもカテキン類の合計量は減少する。ただし個別の成分では、荒茶から浅い焙煎にかけていったん増加し、その後さらに焙煎を深めると減少する、山型の変化を示す成分もある。
範囲: 高知県農業技術センター茶業試験場、蒸し時間50秒の一番茶・刈番茶・二番茶荒茶。自動連続式ほうじ茶機による2回焙煎(1回目排気温90℃、2回目排気温100℃でドラム回転数を茶期・焙煎程度ごとに調整)。
注記: HPLC(日本分光製X-LCシステム)による直接定量。試料は各条件1点のみで反復数の記載はない。
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process-hojicha-roasting —reduces→ compound-catechins煎茶の仕上げ加工では、審査・選別・火入れ・合組という工程を経る。荒茶の等級に応じて火入れの温度と時間が変えられ、上級茶用の荒茶には元の特性を生かす軽い火入れを、中級・並級の荒茶には火入れ茶特有の滋味と芳香を強める火入れをあてる。過度な火入れは焦げ臭を生み、甘い香りをマスクするとも記される。
範囲: 高知県内産の普通蒸し煎茶荒茶。
注記: 高知県農業技術センター茶業試験場の普及技術情報(研究期間平成30〜令和2年度)。
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process-tea-hiire —is_prepared_by→ "県内産荒茶(普通蒸し煎茶)の仕上げ加工は、審査→選別→火入れ→合組の工程で行う。荒茶を審査によりA品(上級茶用)・B品(中級茶用)・C品(並茶用)に分類したのち、A品荒茶は外観・内質が優れるためその特性を生かした火入れとし、回転ドラム式火入れ機で90℃30分前後、さらに弱い火香を付ける場合は100℃20〜30分前後とする。B品・C品は火入れ茶特有の滋味と芳香を生成させ香ばしさを強調するため中程度から強い火香を付ける火入れとし、回転ドラム式火入れ機で100℃30〜40分前後とする。火入れは火入れ茶特有の芳香と滋味を生成させる加熱工程であり、過度な火入れは焦げ臭で甘い香りがマスクされる。"よく問われること
回甘とはどういう意味か
回甘は、口に含んだ直後にわずかな苦味や渋味を感じたあと、時間とともに甘みが優勢になり、最後は甘い後味で終わる感覚を指す言葉として、中国語圏の茶文化記事で繰り返し説明されている。生津・喉韵・回甜という似た語も並んで使われるが、記事によって回甘との境界が重なったまま流通しており、学術論文による厳密な定義は確認できていない。なぜ甘みが遅れて感じられるのかという仕組みについては、口の中に膜ができて破れるという説、多糖が唾液の酵素でゆっくり分解されるという説、苦味への感覚順応で甘みが相対的に強まるという説が挙げられているが、どれも茶を対象にした直接の検証実験は伴っていない。
抹茶はなぜ渋くなりにくいのか
抹茶の原料になる茶葉は覆いをかけて育てられ、被覆によって減るのは苦渋味の弱いエピガロカテキンで、苦渋味の強いエピガロカテキンガレートはあまり減らないと報告されている。さらに、官能審査の点て方に準じて調製すると、エピガロカテキンガレートの浸出率はテアニンやカフェインより低く、浸出液中の濃度も他の茶の官能審査液より低いことが確かめられている。茶筅を激しく振ることで湯温が急に下がり、温度に敏感なエピガロカテキンガレートが溶け出しにくくなるという考察もあるが、これは著者自身の考察であり、湯温の低下そのものを直接測った検証ではない。
プーアル茶は発酵で甘くなるのか
古樹由来の毛茶を36日間発酵させた一つの時系列では、発酵の終点で苦味と渋味がいずれも有意に下がり、同時に甘みは有意に高まったと報告されている。色は黄緑から赤褐色へ、香りは新鮮な印象から発酵臭のある印象へ変わったとも記録されている。ただしこれは対照発酵槽を持たない単一バッチの観察であり、この変化がどの工程要因によって起きているかまでは切り分けられていない。
関連する項目:回甘 /生津 /喉韵 /回甜 /緑茶 /鉄観音 /プーアル茶 /抹茶 /玉露 /ほうじ茶 /堆積発酵 /火入れ
関連する研究ノート: 苦味には、時計がある /苦味と渋味とえぐみは、何が違うのか /「苦い」の地図——一語から東と西へ
出典台帳: 出典一覧
この頁の引用のしかた
青木大(NIGAMI LAB)(2026). 回甘——苦味のあとに甘さが来る茶の時間. https://nigamilab.com/notes/huigan-tea-time/
主張ごとの固定リンクは各カードの #clm-… です。データは CC BY 4.0、配布は データを使う。 データセットの DOI: 10.5281/zenodo.22739101