研究ノート 046 — 2026-09-04
人はどれだけ薄い苦味に気づくか——閾値の地図
「これくらい薄ければ苦味は分からない」の「これくらい」を、研究は一つの数字では答えません。まず何があると気づく段階(検知)と苦味だと分かる段階(認知)で数字が違います。次に化合物が違えば桁が違い、同じ人の中でも化合物によって個人差の開き方が違います。さらに測る側が訓練された少人数のパネルか、一般の被験者かでも前提が変わり、水に溶かすかビールやジュースに溶かすかでも数字は動きます。このノートは、その四つの軸ごとに報告された数字を並べます。
↑この頁でわかること
- 苦味の「検知閾値」と「認知閾値」は、同じ物質でも別の数字として測られている。
- 塩酸キニーネでは、2019年の認知閾値と2026年の検知閾値の大小関係が本来の向きと逆になっており、約2桁のずれの理由はまだ分かっていない。
- 同じPTCという化合物でも、人による個人差の幅(最大8000倍)は化合物どうしの閾値の違い(40倍超)より大きいと測られている。
- リモニンやナリンギンの苦味閾値は、水に溶かした場合とジュースに溶かした場合で数字が変わると測られている。
検知閾値と認知閾値は、同じ数字ではない
「わずかに何か違う」と気づく検知閾値と、「これは苦味だ」と名指せる認知閾値は、同じ物質でも別の数字になります。サフランの主要苦味成分ピクロクロシンでは、水中の検知閾値が5.34 mg/L、認知閾値が7.26 mg/Lでした。61±4°Cの高温提示では閾値が下がり、40%のエタノール中では苦味が強まったと報告されています。
範囲: 水およびエタノール系マトリクス、共存成分の有無
注記: 既存の閾値系 claims(キニーネ・ナリンギン等)と同様、単一の「閾値」ではなく条件依存であることを保持。
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compound-picrocrocin —has_human_taste_thresholds_of→ "水中で検出閾値5.34 mg/L・認識閾値7.26 mg/L(訓練パネル、Ascending Forced Choice of Limits)。高温(61±4°C)提示で閾値は低下し、40% (v/v) エタノール中では苦味が増強、サフラン揮発成分共存で苦味知覚が向上"ホップの主要苦味酸イソα酸は、無ホップのラガービールに溶かした状態でボランティア14名を対象にASTM 1432法(三肢強制選択)で測定され、群単位の検知閾値は7.1 mg/L(範囲4.5-11.2 mg/L)でした。グループ値はパネリストの50%が正しく識別した点、個人閾値は66%正答率の曲線から読み取られています。
範囲: 無ホップのラガービールマトリクスにおける ASTM method 1432 三肢強制選択試験、ボランティア14名
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compound-iso-alpha-acids —has_human_detection_threshold_of→ "無ホップのラガービールマトリクスにおける群単位の検出閾値 7.1 mg/L"同じ手法・同じ14名でテトラヒドロイソα酸を測ると、検知閾値は2.7 mg/L(範囲0.7-10.0 mg/L)と、イソα酸の7.1 mg/L(4.5-11.2 mg/L)より低い値になりました。ASTM 1432法とASTM 679法の結果を比べても、1試験日を除いて差はなかったと報告されています。
範囲: 無ホップラガービールマトリクスにおける ASTM method 1432 三肢強制選択試験、化合物ごとにボランティア14名
注記: 抄録では tetra の分布(0.7-10.0)は iso(4.5-11.2)より広く、点推定値の順序を2つのパネリスト分布の明確な分離と読むべきではない。2閾値の統計比較は抄録に記載なし。
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compound-tetrahydro-iso-alpha-acids —has_lower_human_detection_threshold_than→ compound-iso-alpha-acids塩酸キニーネでは、この二段階の順序そのものが揺らぎます。2019年の研究は認知閾値を約0.011-0.018 mM(log10値で-1.737から-1.980)と報告しました。ところが2026年の研究は、より緩い基準のはずの検知閾値を0.264-0.809 mg/mL(約0.67-2.0 mM)と報告しています。検知閾値は認知閾値以下になるはずですが、この二つを並べると約2桁高い方向にずれます。2026年の研究はn=79/78で、濃度系列も噴霧の範囲も2019年の研究とは異なり、乖離の理由はどちらの論文からも特定できません。
範囲: 健常成人へのヒト心理物理計測。いずれも quinine hydrochloride を舌前部へ噴霧提示(2019: 前半分へ約0.2 mLミスト; 2026: 前2/3へスプレー)
注記: モル換算(mg/mL→mM, 無水 quinine HCl MW≒360.9)は当方の派生値。方法(検出vs認知・濃度系列・判定手続き)とパネル(n=41 平均30歳 vs n=100 33-57歳・86%女性)が異なる。Juratli 2026 は同一研究内でも test 0.809 → retest 0.264 mg/mL と約3倍動く。単一の「キニーネ閾値」は存在しないことの実例。
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compound-quinine —has_reported_human_taste_threshold_of→ "約 0.011-0.018 mM(認知閾値, QUEST/qYN, 2019)に対し 0.264-0.809 mg/mL ≒ 0.67-2.0 mM(検出閾値, QUEST, 2026)— 検出閾値≦認知閾値のはずが約2桁高い方向に乖離"化合物間の幅と、個人差の幅
化合物が違えば閾値の桁が違うのは当然として、同じ化合物の中でも人による幅がそれを上回ることがあります。PTC(フェニルチオカルバミド)の苦味感受性を分ける受容体TAS2R38では、コーディング領域の3つのSNPが作る5つの世界的ハプロタイプが、非血縁の被験者間でのPTC感受性の分散の55-85%を説明します。平均閾値は化合物間で40倍を超えて開き、PTCの約50 µMからシニグリンの約2000 µMまで分布しましたが、同一化合物内の個人差はサリシン・ゴイトリン・シニグリンで40倍、PTCでは8000倍に達しました——化合物間の幅より、PTC一つの中の個人差のほうが大きいのです。
範囲: 非血縁被験者での連鎖不平衡マッピング(Kim 2003)、遺伝子型で層別した精神物理学(Bufe 2005)、6ハプロタイプの閾値フェノタイピング(Behrens 2013)
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receptor-tas2r38 —explains_bimodal_variation_in→ compound-ptcPROPはPTCの代役としてよく使われますが、同じTAS2R38ジェノタイプで比べても挙動は違います。被験者32名をPAV/AVI型で層別し、認知閾値を心理測定関数上の75%正答点で定義した実験では、PAV/PAVとAVI/AVIの差はPTCで400倍を超えたのに対し、PROPでは40倍にとどまりました。
範囲: TAS2R38 ディプロタイプ既知の被験者32名を両化合物の濃度系列で試験。閾値は心理測定関数上の75%成績と定義
注記: PROP を PTC の代替として使う慣行への機序的な留保。AVI/AVI の2名が PROP に強く応答し PAV/PAV の2名がほとんど応答しなかったことが直接の根拠。
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compound-prop —is_not_perceptually_interchangeable_with→ compound-ptc化合物間で個人差の大きさそのものも違います。国税庁醸造試験所の酒類醸造講習生28名(19-40歳)を対象に、Pfaffmannの1点識別法で4つの呈味物質の刺激閾値を測った研究では、平均閾値はグルコース4.69×10⁻²M、リンゴ酸1.9×10⁻⁴M、食塩1.26×10⁻²M、硫酸キニーネ7.2×10⁻⁶M(0.0006%相当)でした。4物質のうち個人差(変動率σ/x̄×100)が最も大きかったのは硫酸キニーネで、136%に達しました。
範囲: 国税庁醸造試験所の第78回酒類醸造講習生28名(19-40歳,平均25.61歳,内女子1名)を対象に,Pfaffmannの1点識別法により測定。4味物質(グルコース,リンゴ酸,食塩,硫酸キニーネ)のうち最も個人差が大きかったのは硫酸キニーネで,変動率(σ/x̄×100)は136%に達した。硫酸キニーネに鋭敏な被験者はリンゴ酸・食塩にも鋭敏な傾向が認められた。
注記: 大場ほか(1984)。清酒そのものではなく、酒類鑑定パネル(清酒を含む)の識別能力訓練・標準化のための基礎データである点に留意。
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compound-quinine —has_human_taste_thresholds_of→ "平均検知閾値7.2×10⁻⁶M(硫酸キニーネ、0.0006%相当)"近縁の化合物群の内側だけでも幅は大きく開きます。ビールの貯蔵中に生じるイソα酸の三環・四環変換物(トリシクロコフモール等)は、報告された閾値濃度が5から70 µmol/Lの範囲に散らばりました。
範囲: ビール熟成中に生成する trans 特異的変換生成物。貯蔵した市販ビールで定量
注記: 貯蔵によるビール苦味の(強度だけでなく)質の変化を説明する。抄録が与える閾値範囲は化合物セットに対するもので、化合物ごとの値ではない。
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compound-class-iso-alpha-acid-cyclization-products —contributes_to→ sensation-bitterホップβ酸を麦汁煮沸条件で加熱した変換物でも、認知閾値は7.9から90.3 µmol/Lまで開きます。最も低いcohulupone(7.9 µmol/L)は持続の短いイソα酸様の苦味、hydroxytricyclocolupone(14.7 µmol/L)は舌の後方と喉に長く残る粗い苦味と記述されています。
範囲: 麦汁煮沸条件下での colupulone 加熱処理によるβ酸変換生成物。その後市販ビールで定量
注記: α酸誘導体だけでなくホップβ酸も測定可能な苦味に寄与すること、および類似の閾値規模でも同族体間で時間的な質が異なることを示す。パネリスト数と閾値法は抄録に記載なし。
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compound-class-beta-acid-transformation-products —contributes_to→ sensation-bitterClass III(アンモニアカラメル)色素を苦味で分画・同定した研究では、DDMP・HMF・フルフラール・5-メチルフルフラールの4化合物の閾値濃度がそれぞれ14.3、30.0、4.4、17.5 µmol/Lと報告されました。
範囲: 市販Class IIIカラメル色素を対象とした官能ガイド分画研究
注記: Class III(アンモニアカラメル)という規格上の1クラスに対する知見であり、Class I/II/IVや、食品中で加熱により生じる非規格のカラメル化一般への外挿はできない。
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compound-class-caramel-colours —has_key_bitter_organoleptics→ "市販Class III(アンモニアカラメル)色素を対象に、苦味を指標にした分画・同定(sensory-guided fractionation)を行い、DDMP(2,3-dihydro-3,5-dihydroxy-6-methyl-4(H)-pyran-4-one)、HMF(5-ヒドロキシメチルフルフラール)、フルフラール、5-メチルフルフラール(MF)の4化合物が主要な苦味化合物として単離・構造決定された。閾値濃度はそれぞれ14.3、30.0、4.4、17.5 µmol/Lと報告される。揮発性の苦味化合物としてDMFM・TMPも別途同定された。"熟成ゴーダチーズから精製・合成した12種のペプチドでも、認知閾値は0.05から6.0 mmol/Lに分布し、最も低いデカペプチドYPFPGPIHNSはカフェイン様の苦味質で0.05 mmol/Lでした。
範囲: 熟成ゴーダチーズから精製・合成したペプチド
注記: 閾値測定法・パネル人数は抄録に記載なし。
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compound-class-bitter-peptides —has_recognition_thresholds_of→ "0.05-6.0 mmol/L(合成・精製した12ペプチドが明瞭な苦味)。最低閾値はデカペプチド YPFPGPIHNS の 0.05 mmol/L でカフェイン様の苦味質"そして化合物レベルの数字自体、必ずしも一つに定まりません。コーヒー豆特有の苦味化合物モザンビオシドでは、2015年の抄録が水溶液中の認知閾値を60±10 µMと報告し、同系列の研究室による2025年の抄録は132 µMと報告しています。同じ化合物、近い研究室系譜でも、約2.2倍の開きが残ります。
範囲: 水溶液でのヒト認知閾値
注記: 当基盤初の contested 主張。閾値はパネル・手法依存で、単一の値として扱えないことの実例。
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compound-mozambioside —has_bitter_recognition_threshold→ "60±10 µM(2015)と 132 µM(2025)— 同系列の研究室で約2倍の不一致"訓練パネルと一般人
ここまでの数字の多くは、広い一般人口ではなく、少人数の訓練されたパネルや業界の基準見本づくりから出ています。清酒のグルテリン由来ペプチド研究では、精製した5種のペプチド(ピーク9,13,17,18,20)の検知閾値は0.02-0.18 mM、認知閾値は0.08-0.66 mM(評価者6名の幾何平均)でした。清酒中の実際の濃度を認知閾値で割った指標は6から60の範囲に収まりました。
注記: 橋爪(2008)第5表。15%エタノール溶液に溶解した精製標品の評価。
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compound-class-sake-glutelin-peptides —has_bitter_recognition_threshold→ "精製単離ペプチド5種(ピーク9,13,17,18,20)の検知閾値0.02-0.18mM、認知閾値0.08-0.66mM(評価者6名の幾何平均)。呈味の特徴はピーク毎に『苦味,不快な後味』『苦味,エグ味』『エグ味,苦味,雑味』等異なる。清酒中濃度/認知閾値の指標(呈味への寄与の目安)は6-60の範囲。"日本酒造組合中央会などの協力でまとめられた清酒の香味用語体系では、『苦味』の標準見本にチロソールを充て、弁別閾値(検知)を1.4 g/L、標準添加量を4.9 g/Lと定めています。清酒中のチロソール含有量は70-90 mg/Lで、この検知閾値よりずっと低い水準にとどまります。
範囲: 用語体系のクラス『13.苦味』/用語『苦味』は定義『苦い』とされ,標準見本にチロソール(2-(4-Hydroxyphenyl)ethyl alcohol, TCI 98%+)を充てる。弁別閾値(検知)1.4g/l,標準添加量4.9g/l,清酒中の含有量70-90mg/l。
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ingredient-sake —has_standardized_vocabulary_entry_in→ "宇都宮ほか(2006)の清酒香味品質評価用語体系(酒類総合研究所が日本酒造組合中央会・灘酒研究会・伏見醸友会の協力を得て取りまとめ)"ビールの風味用語体系でも、苦味の項目番号1200にはイソフムロン製剤Isoloneが選ばれ、『他の風味成分が少ない典型的な苦味』『閾値は正規分布を示す』と記載されています。
範囲: Meilgaard, Reid & Wyborski (1982)『Individual Standards』1200 BITTER の項
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concept-beer-flavor-wheel —is_defined_as→ "『1200 BITTER. The preparation Isolone®(Kalsec Inc., Kalamazoo, MI 49005) gave a typical bitter flavor with a minimum of other flavors. Thresholds were normally distributed.』(苦味の基準物質として、他の風味成分が少なく典型的な苦味を与えるイソフムロン系調製品Isoloneを採用し、閾値は正規分布を示したと報告)"実際の群閾値の記録は二つ残っていて、Difference Rating Testでは16名の試飲者で7.3 mg/L、無ホップビールを使ったASTM漸増法では18名の試飲者で5.7 mg/L でした。同じ基準物質でも、方法と人数が変われば数字は動きます。
範囲: Meilgaard, Reid & Wyborski (1982) Table II
注記: 測定はA.S.T.M. Ascending Method of Limitsによる。パネル人数16〜18名。
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concept-beer-flavor-wheel —is_documented_as_having→ "『1200 Bitter / Isohumulone (Kalsec Isolone) / Threshold: 7.3 mg/L』(協力者 C-22、16 名)と『5.7 mg/L』(協力者 C-22、18 名、注記『Three tests, unhopped beer』)。苦味の基準物質イソフムロンの群閾値として、二つの試験法で 7.3 mg/L と 5.7 mg/L を報告"媒体で、同じ物質の閾値は動く
水に溶かした値と、実際の飲み物や食品の中での値も、同じではありません。柑橘の苦味化合物リモニンは、蒸留水中の閾値が1 mg/Lです。ところがpH 3.8のオレンジジュースでは最大弁別閾値が6.5 mg/kgまで上がり、モデル溶液での最大値11 mg/kgも同じpH 3.8で生じました。
範囲: 選抜パネル20〜27名。蒸留水・スクロース・クエン酸モデル系およびオレンジジュース
注記: スクロースとクエン酸は閾値を上げる。モデル系とジュースで抑制の最適は pH 3.8。後年の脱苦味文献はこの系譜からジュース値 6.5 ppm を引用している。
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compound-limonin —has_bitter_recognition_threshold→ "蒸留水中 1 mg/L。pH 3.8 のオレンジジュースにおける最大弁別閾値 6.5 mg/kg"同じ研究の蒸留水中のナリンギン閾値は20 mg/Lでした。別の脱苦味研究は、ジュース中では濃度が20 ppmを超えると即時性の苦味が生じると記述しています。
範囲: 水中の値は選抜パネル20〜27名による。ジュースに関する記述は同じ系譜を引用する脱苦味文献に由来
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compound-naringin —has_bitter_recognition_threshold→ "蒸留水中 20 mg/L。ジュースでは約 20 ppm を超えると即時性の苦味が生じると記述される"ニガウリの苦味化合物でも、媒体は精製化合物を溶かした溶媒です。チャランタサイドBの認知閾値は3%エタノール中で13.6 ppmと報告されています。
範囲: 引用した閾値研究における3%エタノール中の精製化合物
注記: 閾値と寄与はマトリクス固有。
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compound-charantoside-b —elicits→ sensation-bitterモモルジシンIVも同じ3%エタノール中の精製化合物として、強い苦味を示す主要な寄与成分と同定されました。どちらも溶媒に溶かした精製化合物の値であり、生の果実そのものの強度ではありません。
範囲: 引用した閾値研究における3%エタノール中の精製化合物
注記: 閾値と寄与はマトリクス固有。
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compound-momordicine-iv —elicits→ sensation-bitter純粋な標準溶液と実際の食品の違いは、アユの内臓発酵食品「うるか」でも確認されています。標準コール酸溶液では検査者6名全員が苦味を感じたのは8×10⁻⁴Mで、32×10⁻⁴Mになると甘味も感じ始めました。標準タウロコール酸溶液では苦味が4×10⁻⁴M、甘味が16×10⁻⁴Mでした。
範囲: 1982年の研究(標準コール酸溶液、検査者6名)
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compound-cholic-acid —has_bitter_recognition_threshold→ "標準コール酸溶液を用いた官能検査(検査者6名)で、全員が苦味を感じた濃度は8×10⁻⁴Mであった。苦味とは別に甘味を感じ始める濃度は32×10⁻⁴Mであった。"範囲: 1982年の研究(標準タウロコール酸溶液、検査者6名)
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compound-taurocholic-acid —has_bitter_recognition_threshold→ "標準タウロコール酸溶液を用いた官能検査(検査者6名)で、全員が苦味を感じた濃度は4×10⁻⁴Mであった。苦味とは別に甘味を感じ始める濃度は16×10⁻⁴Mであった。1939年のOhtaの研究により、タウロコール酸は鮎の胆嚢胆汁から単離されている。"ところが遊離型とタウリン抱合型を17.5:5.5のモル比で混ぜた「うるか」由来の総胆汁酸画分では、同じ検査者6名全員が苦味を感じるまでにコール酸濃度換算で8×10⁻⁴Mが必要で、同じ組成比の標準混合溶液の弁別閾値4×10⁻⁴Mより高い値でした。標準溶液では感じられた甘味も、うるか由来の画分では検査した範囲内で感じられませんでした。
範囲: 官能検査(検査者6名、微温湯で口をすすいだ後に試料を含み吐き出す方式)
注記: 精製が進むほど苦味が増強したことも報告されており(Table 7)、うるかの総胆汁酸画分中には苦味の弁別閾値や甘味の発現を変化させる、他の未知成分の影響がある可能性を論文は考察している。
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dish-uruka —has_bitter_recognition_threshold→ "「うるか」から抽出した総胆汁酸画分について官能検査を行ったところ、検査者6名全員が苦味を感じたのはコール酸濃度換算(遊離型:タウリン抱合型=17.5:5.5のモル比)で8×10⁻⁴Mの濃度であった。同じ組成比の標準胆汁酸混合溶液での弁別閾値は4×10⁻⁴Mであり、「うるか」由来の画分は標準溶液よりも高い濃度でようやく苦味が弁別された。また標準溶液では感じられた甘味が、「うるか」の総胆汁酸画分では検査範囲内で感じられなかった。"正直な注記
- 多くの数字は抄録レベルの確認にとどまり、パネル人数や測定手順の全文照合が済んでいないものを含みます(各カードの確認状態表示を参照)。
- 検知閾値・認知閾値の定義(何%正答をもって閾値とするか)は研究ごとに違い、この定義の違い自体が数字のずれの原因になり得ます。塩酸キニーネの2019年と2026年の乖離は、どちらの論文からも理由が特定できないまま残されています。
- このノートは化合物どうしの苦さの序列を作るものではありません。閾値の桁が違っても、それが食品や飲料の中での寄与や強さの序列を意味するとは限りません。
よく問われること
同じ苦さでも、人によって感じ方が違うのはなぜか
化合物によっては、人による感じ方の差が非常に大きいと報告されている。PTC(フェニルチオカルバミド)という苦味物質では、同じ化合物に対する個人差が最大8000倍に達したという報告があり、これは化合物どうしの閾値の違い(40倍を超える程度)よりも大きい。この個人差の一部は、TAS2R38という受容体の遺伝子の型で説明できると報告されており、3つのSNPが作る5つの世界的なハプロタイプが、非血縁の被験者間での感受性のばらつきの55〜85%を説明すると報告されている。ただし、この関連の強さは化合物ごとに違い、PROPという別の苦味物質ではPTCほど明瞭には遺伝子型で分かれなかった。
苦味の感じやすさは水の中と食べ物の中で同じか
同じではない。柑橘の苦味化合物リモニンは、蒸留水中では1 mg/Lで閾値に達したのに対し、pH 3.8のオレンジジュースでは最大弁別閾値が6.5 mg/kgまで上がった。ナリンギンも蒸留水中の閾値は20 mg/Lだが、ジュースでは20 ppmを超えると即時性の苦味が生じるという記述もある。アユの内臓発酵食品「うるか」でも、標準の胆汁酸溶液より実際の食品由来の画分のほうが高い濃度でようやく苦味が弁別されたと報告されている。溶媒や食品の組成が変わると、同じ化合物でも苦味に気づく濃度は変わる。
分かっていないこと
- 塩酸キニーネの検知閾値と認知閾値が逆転して見える理由は、濃度系列や噴霧量、対象集団の違いのどれが効いているのか、まだ特定されていない。
- モザンビオシドの閾値が2015年と2025年の報告で約2.2倍異なる原因は、パネルや精製度、手法のどれによるものか、両方の抄録からは分からない。
- 化合物間の閾値の桁の違いと、実際に食品の中でその化合物がどれだけ苦味に寄与するかの関係は、この資料の範囲では体系的に確かめられていない。
- うるかの総胆汁酸画分で甘味が感じられなかった理由が、遊離型とタウリン抱合型の比率によるものか他の成分によるものかは、まだ分かっていない。
- 多くの化合物の閾値はパネル人数や手順が抄録にしか記載されておらず、全文で確認できていない。
関連する項目:TAS2R38 /キニーネ /イソα酸 /清酒 /うるか
関連する研究ノート:「苦い」は、ひとつの味ではない /苦味を消す調味料はある? — 砂糖・塩で変わること /ホップの苦味はどこから来て、どこで失われるか /二十五の苦味受容体は、何を分担しているか
出典台帳: /sources/ / 主題ハブ: /topics/beer-ibu/
この頁の引用のしかた
青木大(NIGAMI LAB)(2026). 人はどれだけ薄い苦味に気づくか——閾値の地図. https://nigamilab.com/notes/bitterness-thresholds-map/
主張ごとの固定リンクは各カードの #clm-… です。データは CC BY 4.0、配布は データを使う。 データセットの DOI: 10.5281/zenodo.22739101