下処理帳 — 加えるもので和らげる
苦味を和らげる組合せ——何を加えると、苦味は下がったか
結論
苦味は、取り除くだけでなく、加えるもので和らげられることがある。苦味が下がった組合せを、加えるものごとに並べる。試験の種類と確かさは行ごとに違う。
家庭で試すなら
- ゴーヤには、かつお節を加える。人が食べて比べた試験で、チャンプルーでも生でも苦味が下がった(レシピ)。
- ピーマンは、卵黄やマヨネーズと合わせる(予備的。企業の研究者による、ピーマンの液での試験)。
- ほうれん草やケールのピューレでは、少しの砂糖や塩で苦味が下がった(予備的。要約だけを確かめた資料)。
- レタスには、酢を含むドレッシングを食べる直前にかける(予備的。企業の大会要旨と機器の測定が中心。レシピ)。
- コーヒーに牛乳やオーツ飲料を30%ほど加えると、苦味がいちばん目立つ時間が減った。
まだ分かっていないこと
- 苦くなってしまった料理(ジャム・カレー・煮物など)を、後から加えるもので直せるかは、ほとんど測られていない(汁物・飲み物では、ミーソトの汁とコーヒーの例がある)。
- 組合せどうしの効き目を、同じ物差しで比べた研究は無い。行ごとに、食材も量も評価の仕方も違う。
下処理帳のうち、何かを「加える」ことで苦味が動いたかを測った行だけを集めた頁です。行の中身と判定(減る・変わらない・増える・未検証)は、食材ごとの下処理帳と同じで、根拠のカードはそれぞれの食材の頁にあります。 取り除く側の手(ゆでこぼし・水さらし・皮をむくなど)は下処理帳に、苦味を足して組む側は苦味の交差点にあります。 ここに無い苦味で困っていたら、困りごとの用紙から教えてください。
↑台所で加えるもの
かつお節・だし
ゴーヤ減る
かつお節を加えて食べると、チャンプルーでも生のゴーヤでも苦味が有意に下がった。ゴーヤのエキスに加えた実験では、だし(熱水抽出液)でも下がったが、削り節ほどではなかった。著者は、苦味の成分が固形物に吸着されると考えている。
条件: かつお節(削り節)を加える(生食・加熱調理いずれの場合も)
ミーソトの汁減る
NaClを40%削減した上でAjiplusまたはMSGを0.20〜0.40%加えると、苦味の官能強度が対照(5.94)から4.33〜4.85まで有意に下がった(NaClを22%・31%削減しただけでは有意差はなかった)。
条件: NaClを40%削減した配合にAjiplusまたはMSGを0.20%・0.40%添加(パネリスト24名、difference-from-control試験)。
乳・脂(牛乳・卵黄・マヨネーズなど)
牛乳やオーツ飲料を加えると、抽出液を飲む複数の時間帯で苦味が最も注意を引く感覚である割合(TDS優勢率)が下がった。
条件: コーヒー70%+牛乳またはオーツ飲料30%のTDS比較(中煎り・深煎りArabica)。
脂肪含量が上がるほど、知覚される苦味・カカオ風味・収斂の強度が有意に低下し、甘味の知覚は有意に増加した(いずれもp<.05)。総合的な好みには有意差はなかった。
条件: カカオ分70%の再構成(カカオパウダー+カカオバター)二成分チョコレート、総脂肪含量30/35/40%(w/w)の3水準、消費者108名。
ピーマン減る
卵黄は卵白より苦味の低減効果が有意に高く、乳化粒子の小さいマヨネーズは大きいものより、酢と混ぜて置いた卵黄は卵黄だけより、さらに高かった。ピーマン液での評価で、料理そのものは測っていない。企業の研究者による発表で、裏付けは予備的。
条件: 生ピーマンを粉砕して水と1:3で混ぜた液に、卵黄・マヨネーズを加える(20名の7段階官能評価)。
ピーマン減る
ゴーヤとピーマンをマヨネーズで加熱調理した試料は、植物油で加熱調理した試料より苦味が低いと評価された。予備的な報告で、根拠の確かさは低い。
条件: マヨネーズで加熱調理する(学会の大会要旨。人数・数値は要旨に無い)。
塩
ケール減る
少量の食塩添加でも苦味強度が低下し、食感・香りは変化しなかった。
条件: ピューレに食塩を0.2%混ぜる(浸漬・もみ込みではなく直接混和)
ケール減る
この濃度の食塩はケールでは苦味を弱めたが、アスパラガス・芽キャベツなど他の野菜では同じ効果を示さなかった。野菜の種類に依存する結果。
条件: 塩化ナトリウム32 mMを加える(実験室調製サンプル)
ほうれん草減る
少量の食塩添加でも苦味強度が低下し、食感・香りは変化しなかった。
条件: ピューレに食塩を0.2%混ぜる(浸漬・もみ込みではなく直接混和)
芽キャベツ減る
酢酸ナトリウムの添加で苦味が低減し、好み評点を高める傾向も見られた。
条件: 酢酸ナトリウムを加える
味噌減る
食塩0.25%以上で、食塩が多いほど苦味が弱まる傾向があった。脱塩した液は、食塩を含む液より苦いと判定された。味噌汁そのものではなく、味噌の水溶性成分の液での試験。
条件: 無塩の豆味噌の希釈液に食塩を0〜1.0%加える(30名の順位づけ)。
芽キャベツ変わらない
平均的には苦味・好みの評点は変わらなかった(p>0.3)。ただし無添加時に苦味を強く感じていた人ほど、食塩添加後の苦味低下幅が大きいという個人差があった。
条件: 食塩(NaCl)を振りかける・加える
砂糖・甘味
甘みを強めると苦味・苦味の後味・渋味の官能評点が下がった(グレープフルーツ様モデル飲料での結果。実飲料での再現は未確認)。
条件: モデル飲料でナリンギン濃度(158/315/473 mg/kg)を一定にしたままショ糖濃度を8→10→12 Brixへ増量(実際の果汁ではなくモデル飲料での結果)
ケール減る
少量の砂糖添加で苦味強度が低下し、強制選択課題でも無添加より苦味が弱いと判定された。好み評点も砂糖添加で上昇。
条件: ピューレに砂糖を0.6〜1.8%(または実験3で1〜2%)混ぜる
ケール減る
供試したナトリウム系添加物より苦味抑制・嗜好改善の効果が大きかった。下処理というより添加物による対処。
条件: 人工甘味料(アスパルテーム)を加える
ほうれん草減る
少量の砂糖添加で苦味強度が低下し、強制選択課題でも無添加より苦味が弱いと判定された。好み評点も砂糖添加で上昇。
条件: ピューレに砂糖を0.6〜1.8%(または実験3で1〜2%)混ぜる
ダークチョコレート変わらない
レバウジオシドAとトウガラシの濃度を組み合わせても、苦味の最大強度(Imax)は9組み合わせ中ほぼ全てで有意差がなかった(唯一、トウガラシ2.0g/kg+レバウジオシドA980g/kgと、トウガラシ5.0g/kg+レバウジオシドA800g/kgの間にのみp≤0.05の有意差)。
条件: 無糖辛味ダークチョコレート、レバウジオシドA濃度(500/800/980 g/kg)とトウガラシ濃度(2.0/3.5/5.0 g/kg)の組み合わせ。時間強度法(TI)、訓練パネル13名。
コピ未検証
コピの伝統的な焙煎では、途中で塩、仕上げに砂糖を加えると苦味の後味が和らぐと語られる。
条件: 伝統的な配合で焙煎途中に塩を加え、仕上げに追加の砂糖を加える。官能測定を伴わない、焙煎人・記録者による言葉の記録(「苦い後味を取り除く」「苦味を丸める」)。
柚子の皮未検証
加熱工程自体はリモニンの環化などにより苦味を新たに生じさせうるとする機構説明(萩原1980)があり、ショ糖には苦味知覚を弱める一般的な知見もあるが、柚子の皮そのものを対象にこの2つの効果を定量的に測定した資料は見当たらなかった。
条件: 下処理した皮を砂糖に漬け込む、または加熱してマーマレード・砂糖漬けにする。
酢・酸
ルピーニ豆減る
クエン酸溶液での洗浄は、伝統的な水浸漬による脱苦味より短時間・少水量で、種子中アルカロイド含量を商業規格の水準(0.31-1.03 g/kg乾物)まで下げた。電子舌測定でも苦味・うま味の応答がアルカロイド含量とよく相関した。
条件: Lupinus albus種子を0.5%または1%のクエン酸溶液で洗浄(超音波併用の有無、対照は水・NaCl溶液)。
レタス減る
レタスのろ液にドレッシングの原料を一つずつ加えた味認識装置の評価では、苦味の低減は食酢で特に大きかった。ドレッシングをかけたレタスの官能評価でも苦味が下がったと大会要旨は記す。噛む口の中で苦味の強い成分ができるのを酸が抑える仕組みはエンダイブで確かめられ、同じ成分を持つレタスにも著者は同じ仕組みを期待している。
条件: 食べる直前に、酢を含むドレッシングをかける。
山ウド未検証
酢水で褐変とアクを抑える、と語られる。水さらしの研究は褐変を測っており、苦味の評点は測っていない。
条件: 酢を入れた水にさらす
食用ぎく未検証
確認できた資料(FoodsLink・note.com)はいずれも発色(変色防止)を目的として説明しており、苦味抑制効果は明記されていない。酢酸添加がカフェイン水溶液の苦味を弱めることを示すモデル実験はあるが、食用菊への適用は未確認。
条件: 茹でる際に酢を加える(水1Lに対し酢30〜50cc程度)。
加工の場の手
家庭の台所よりも、食品の加工で使われる手です。苦味を下げる力は測られていますが、そのまま家庭で使えるとは限りません。
吸着(シクロデキストリン・樹脂・活性炭)
キキョウ減る
桔梗根の煎じ液にHP-β-シクロデキストリンとキシリトールを加えると、評価が「受け入れ難い」から「後に残る苦味のない甘さ」に変わった。
条件: HP-β-シクロデキストリン6.5%+キシリトール10%(対生薬w/w)を併用。
樹脂に吸着させる処理で、ナリンギンが味の閾値を下回るまで減った。
条件: 固定床カラムでのPAD550・PAD600マクロポーラス樹脂処理。ナリンギンを味覚閾値未満まで低下させ、リモニン・ノミリン・ベルガモチンも低減した。
ゴーヤ減る
ニガウリ抽出物に β-シクロデキストリンを 0.25% 加えると苦味が約 33% 減った(緩衝材としての包接。受容性の上昇とは別に記録)。
条件: 抽出物へ β-シクロデキストリン 0.25% を添加
ザボンの白皮減る
β-シクロデキストリンと超音波を組み合わせて処理すると、ナリンギンが大きく減り、予備的な官能評価でも苦味が下がった。
条件: 0.7% β-シクロデキストリンと超音波の併用処理。ナリンギンが18.90から5.1395 mg/g DWへ低下。訓練パネルによる予備的な官能評価でも苦味の低下が報告される。
ザボンの白皮減る
同じ処理でリモニンも減った。
条件: 同じ処理でリモニンが0.2907から0.0776 mg/g DWへ低下。
酵素
ナリンギナーゼを固定化した担体でグレープフルーツ果汁を処理すると、ナリンギンが減った。
条件: pH 4.0・30℃で処理。butyl-glyoxylアガロース固定化ナリンギナーゼでナリンギン54%減、octyl-glyoxylアガロースで74%減(バイオ触媒は24時間バッチ5回再利用)。
同じ酵素処理でリモニンも検出閾値を下回るまで下がった。
条件: 同じ酵素処理でリモニンはbutyl-glyoxylアガロースで100%減、octyl-glyoxylアガロースで76%減。両担体とも検出閾値未満まで低下した。
フェヌグリーク減る
酵素処理でフェヌグリークの苦味に関わるサポニン(protodioscin)が減り、無苦味dioscinへ変わったと報告されている(苦味の直接官能値はこの論文にはない)。
条件: 酵素処理(抄録はβ-グルコシダーゼ、全文Methodsはセルラーゼ製剤SPEZYME CPと記載し不一致がある)。実験1で82%、実験2で96%のprotodioscinがdioscinへ変換された。
夏みかん減る
ナリンギナーゼを加えると、工場実地試験の呈味試験でも苦味の消失が確認された。
条件: ナリンギナーゼ添加。pH・温度・グルコース濃度から使用活性を予測する計算式を作成し、果汁1トンあたり50〜100万単位の添加が有効量と示された。
夏みかん減る
ナリンギナーゼを加えた缶詰は、一部の組合せで無添加より苦味が有意に少なかった。同じ条件どうしの比較では差が有意にならない組合せもあった。
条件: シロップ漬け缶詰にナリンギナーゼを加える(添加法)。7名の順位法。
清酒減る
ACP活性の高いペプチダーゼ剤を加えると清酒の苦味ペプチドが減ったと報告されている(同じ処理で他のペプチドが増え、呈味面のトレードオフも指摘されている)。
条件: 高い酸性カルボキシペプチダーゼ(ACP)活性を持つペプチダーゼ剤を清酒に添加(原著未読了、抄録誌からの二次引用)。
レバー増える
プロテアーゼ(Alcalase)による豚レバーの30分間加水分解で、苦味アミノ酸含量が2.563から22.627 mgアミノ酸/gレバーへ増加した(成分量の測定のみで、知覚苦味の官能評価は行われていない)。
条件: 豚レバーをプロテアーゼ(Alcalase)で30分間酵素加水分解(レビューが引用するLopez-Martinez et al.のデータ、原著未読)。
重曹・アルカリ
薄いアルカリ液に浸けると、果皮のナリンギンが16.58から3.70 mg/100gへ下がった。
条件: 100 ppm NaOHで2分ブランチ後、同溶液に1時間浸漬。
ココアパウダー未検証
アルカリ処理(ダッチプロセス)は、ココア加工において苦味を減らし溶解性を高め色を発色させるための工程と位置づけられている。処理条件の違いはケーキの生地物性・色・食感に影響したが、消費者の総合評価自体には有意差がなかった。ただしこの資料に苦味そのものの官能の比較データは無く、アルカリ処理を苦味を下げる工程と位置づける記述にもとづく。
条件: アルカリ処理(ダッチプロセス。炭酸カリウム・炭酸ナトリウム・水酸化ナトリウム等)を施した市販ココアパウダーをスポンジケーキへ応用。
ぜんまい未検証
わらびと同じ言い伝え。苦味の実測は無い。
条件: 灰か重曹を入れた湯で茹でて乾燥する
わらび未検証
灰や重曹でアクと苦味が抜ける、と語られる。苦味の実測は無い(安全のための処理の理由はこの帳面では扱わない)。
条件: 灰か重曹を入れた湯に浸ける
読み方
- 減る は、苦味の評定や苦味の成分の量を実測した資料で、加えたときに下がったもの。好ましさだけが動いた資料では付けません。
- 未検証 は、料理の説明や言い伝えはあっても、苦味を測った資料がまだ無いもの。
- 同じ食材でも、量・時間・評価の仕方で結果が割れることがあります。行ごとの条件を見てください。
- ここに並ぶのは苦味の話だけです。体への効き目や安全については扱いません。
関連: 下処理帳 / 苦味の交差点 / レシピ / 研究ノート ゴーヤの塩もみは、苦味を抜いていたのか