主題ハブ — 2026-09-07
茶の苦味と渋味
茶の苦味と渋味は、単一の場所で決まるものではない。担い手として名指しされるのはカテキン類とカフェインで、 渋味の主要な寄与者を誰と見るかは、緑茶を対象にした報告と紅茶を対象にした報告とで一致していない。覆いと 摘採は、遮光の有無や摘採の時期によってこの担い手の量そのものを動かし、湯温と浸出は、同じ茶葉から どれだけ担い手を引き出すかを、注ぐたびに書き換える。火入れと後発酵は、担い手の分子を減らしたり 別の分子へ作り替えたりする、より不可逆な工程である。そして中国茶の品飲では、苦味と渋味が消えたあとに 甘さが遅れて立ち上がる回甘という時間軸も語られている。ここでは、葉・湯・火のそれぞれの段階で確認できた 主張だけを、分けたまま並べる。
このページの内容(12 節)
この頁でわかること
- 緑茶浸出液の苦味がエピガロカテキンガレートとエピカテキンガレートの濃度と相関することは、独立した官能研究と受容体研究の両方で確かめられている。
- 渋味の主要な担い手は、緑茶ではカテキン類とする報告がある一方、紅茶では別の配糖体のほうが支配的だったとする報告があり、対象の茶をまたいで一致していない。
- 覆いは苦味と渋味を同じ向きに動かすとは限らず、苦渋味の弱いエピガロカテキンだけが選択的に減るという報告が一つある。
- 回甘は茶文化の説明としてはよく語られているが、その立ち上がりを連続した時間曲線として測った研究は、茶ではまだ見つかっていない。
担い手——カテキン・カフェイン・テアニン
緑茶浸出液の苦味は、ある濃度と味の対応関係を調べた研究において、エピガロカテキンガレート(EGCG)と エピカテキンガレート(ECG)の濃度と相関した。
範囲: 引用研究における緑茶浸出液と濃度-味モデル
注記: 相関とフィット曲線は当該研究固有のもので、普遍的な換算式ではない。
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ingredient-green-tea —has_bitterness_correlated_with→ "EGCG と ECG の濃度"渋味の主要な担い手が誰かについては、報告が割れている。緑茶を対象にした文献はカテキン類を渋味の主要な 寄与因子とする一方、紅茶の味覚希釈研究ではフラボノール配糖体のほうが支配的だったと報告されており、 対象の茶と手法の違いをまたいで一致していない。
範囲: 茶浸出液。緑茶では主張され、紅茶では反証されている
注記: 緑茶文献はカテキンを渋味の主要寄与因子とするが、紅茶の味覚希釈研究ではフラボノール配糖体が支配的だった。マトリクス(緑茶か紅茶か)と手法(相関か希釈-閾値か)が異なる。
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compound-catechins —are_main_contributors_to→ sensation-astringentカテキン類の中でも、苦味の強さは分子の形によって変わる。ガロイル基を持つカテキンの受容体応答が、 持たないカテキンよりhTAS2R39という受容体で強く出る順序から、ガロイル化が苦味を強めるという推定が 導かれている。
範囲: ガロイル基の関与は hTAS2R39 の応答順(ECg, EGCg >> EC, EGC)から推定され、ヒトの味強度観察と類似と記載
注記: ヒトでの直接の用量反応はこのアッセイに含まれない。受容体研究におけるヒト比較は引用であって実施ではない。
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compound-catechins —have_bitterness_increased_by_galloylation→ sensation-bitter渋味・苦味を担う成分とは別に、うま味成分のテアニンは苦味の受け皿そのものに働きかける。同じ受容体を 発現させた細胞を使った実験では、L-テアニンがTAS2R16という苦味受容体を拮抗的に妨げたと報告されている。
範囲: 同じhTAS2R16発現細胞系
注記: 部分的な非克服性拮抗として報告。茶や料理の苦味全体への外挿はしない。
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compound-l-theanine —antagonizes→ receptor-tas2r16覆いと摘採で動くもの——抹茶・碾茶・玉露
抹茶の原料である碾茶は、覆下栽培という遮光を伴う栽培法を前提とする茶葉から作られる。
注記: 碾茶の原料茶葉は覆下栽培(被覆栽培)した新芽を用いる。
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ingredient-tencha —requires→ process-tea-shading-cultivation覆いは苦味と渋味を同じ向きに動かすとは限らない。玉露・てん茶等、遮光率の高い資材で20〜30日程度 被覆栽培される新芽を扱う資料では、カフェインの増加が「苦味・機能性」の欄に、カテキン類の減少が 「苦渋味成分」の欄に、それぞれ別の項目として記載されている。
範囲: 玉露・てん茶等、遮光率の高い資材で20〜30日程度被覆栽培される茶樹の新芽
注記: W44でdeferredだった項目(覆下栽培「渋味のみ」)の再調査。既存claimはカテキン類(渋味・苦渋味成分)の変化のみで苦味を明示していなかった。本claimは同一マニュアルの同じ表内で、カフェインの増加が備考欄「苦味・機能性」として、カテキン類の減少が「苦渋味成分」として別項目に分類されている点により、苦味と苦渋味(渋味)の峻別が資料上に明示されていることを記録する。
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process-tea-shading-cultivation —increases→ compound-caffeine抹茶そのものの組成でも、覆いの効き方はカテキンの種類によって違うと考えられている。覆いで減るカテキンには偏りがあり、下がるのは苦渋味の弱いエピガロカテキン(EGC)で、苦渋味の強いエピガロカテキンガレート(EGCG)はほとんど減らない。
範囲: 碾茶を原料とする抹茶(被覆栽培)
注記: 農研機構の学会講演要旨【目的】段落の背景記述であり、この要旨自体が実施した新規測定データではなく、既往知見のまとめとして述べられている(引用文献番号は要旨中に示されていない)。数値(EGC・EGCGそれぞれの含有量の変化率等)は本要旨には記載されていない。
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ingredient-matcha —has_composition→ "被覆栽培に伴い含量が低下するのは苦渋味の弱いエピガロカテキン(EGC)であり、苦渋味の強いエピガロカテキンガレート(EGCG)の含量の低下はほとんど認められないとされる。"覆いを外したあとの時間経過も組成を動かす。福岡県の玉露'やぶきた'・'おくゆたか'を使った圃場試験では、 覆いを外して光に当てる時間を延ばすと、荒茶の遊離アミノ酸とテアニンは減る方向に、カテキン類(EC+ECG+EGC+EGCGの合計)含有率は増えた。'やぶきた'ではテアニンが被覆状態2224 mg/100gから露光6時間後 1983 mg/100gへ減少し、カテキン類は9.4%から10.3%(乾物重)へ増加している。
範囲: 福岡県農業総合試験場八女分場、玉露'やぶきた'・'おくゆたか'、2006年圃場試験(3反復)
注記: 対象は玉露であり、碾茶(抹茶原料)そのものではない。ただし玉露と碾茶は同じ覆い下栽培の技術群に属し、遮光→アミノ酸/カテキン組成の変化という同じ機構を扱う。官能評価は標準審査法の『滋味』等の総合項目であり、苦味だけを分離した尺度ではない点に留意。
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ingredient-gyokuro —has_composition→ "被覆資材除去後の露光時間(0/1/2/4/6時間)が長くなるほど、荒茶中の遊離アミノ酸・テアニン含有量は減少し、カテキン類(EC+ECG+EGC+EGCGの合計)含有率は増加した。品種'やぶきた'ではテアニンが被覆状態2224 mg/100gから露光6時間後1983 mg/100gへ減少し、カテキン類は9.4%から10.3%(乾物重)へ増加した。覆い香の主要成分ジメチルスルフィド(DMS)は露光1時間後には被覆状態の55%程度(やぶきた)・88%程度(おくゆたか、露光2時間後)まで減少した。標準審査法による官能評価(滋味など内質)は露光時間が長くなるほど劣る傾向を示した(やぶきた合計差: 露光1時間-0.7点、露光6時間-3.2点)。"湯温と浸出で動くもの
鉄観音の浸出液を対象にした研究では、茶水比・湯温・浸出時間・抽出回数のすべてが、苦味と渋味を合わせた 属性に影響したと報告されている。
範囲: 鉄観音を用いた直交回帰設計と訓練パネル
注記: 評価項目はbitterness-astringencyという複合属性。苦味と渋味を個別に変えたとは言わない。
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ingredient-tieguanyin-infusion —has_bitter_astringency_affected_by→ "茶水比、湯温、浸出時間、抽出回数"湯温は、担い手の分子そのものを別の分子へ作り替えることもある。トルコ緑茶を75・85・95℃で1〜45分抽出 した実験では、95℃抽出でEGCGが85℃より少なかった主因は、高温下でエピ型でないガロカテキンガレート (GCG)へ変わるエピマー化だったと報告されている。
範囲: トルコ緑茶を 75/85/95 C で 1-45 分抽出。GCG GC C は温度・時間とともに増加を続けた(GCG 最大 3.63 mg/100 ml、95 C 45 分)
注記: 単一の茶材料(新鮮なトルコ緑茶)。著者らは葉齢・サイズ・季節・製造が結果に影響すると注記。
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compound-egcg —epimerizes_to→ "高温抽出中の非エピ型ガロカテキンガレート(GCG)。95 C 抽出で EGCG が 85 C より低かった主因はこのエピマー化"何度浸出するかだけでなく、何度口に運ぶかも苦味の感じ方を動かす。PROP溶液・コーヒー・マテ茶浸出液・ グレープフルーツジュースを繰り返し口に含む実験では、一口ごとの効果が積み重なり、最大苦味強度を 押し上げたと報告されている。
範囲: 標準BMI群と過体重群のmultiple-sip time-intensity
注記: 各口の効果が有意で、苦味が強い試料ほど累積効果が大きかったと抄録は報告する。
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process-repeated-sipping —can_increase→ "PROP溶液、コーヒー、マテ茶浸出液、グレープフルーツジュースの最大苦味強度"火入れと焙煎で動くもの
ほうじ茶に焙煎すると、渋味に関わるカテキン類は減っていく。高知県産の一番茶・刈番茶・二番茶の荒茶を 焙煎程度別に比べた分析では、カテキン類の合計量(茶液100ml当たりmg)は一番茶で34.89→21.86→14.59→6.98、 刈番茶で25.31→12.09→8.82→2.33、二番茶で54.51→26.31→18.26→8.68と、焙煎を深めるほど減少した。
範囲: 高知県農業技術センター茶業試験場、蒸し時間50秒の一番茶・刈番茶・二番茶荒茶。自動連続式ほうじ茶機による2回焙煎(1回目排気温90℃、2回目排気温100℃でドラム回転数を茶期・焙煎程度ごとに調整)。
注記: HPLC(日本分光製X-LCシステム)による直接定量。試料は各条件1点のみで反復数の記載はない。
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process-hojicha-roasting —reduces→ compound-catechinsカフェインの減り方はカテキン類ほど単純ではない。同じ産地の分析では、浅炒りでは一番茶2.61mg/100ml (荒茶比101%)・刈番茶2.50(99%)とほとんど減らなかったのに対し、深炒りでは一番茶2.43(94%)・ 刈番茶2.17(87%)と6〜13%減少した。
範囲: 高知県農業技術センター茶業試験場、2014年、一番茶・刈番茶の荒茶を用いた浅炒り・深炒りほうじ茶(自動連続式ほうじ茶機による2回焙煎)。
注記: HPLC(Shimadzu製)による直接定量。
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process-hojicha-roasting —reduces→ compound-caffeine火入れの温度と時間が香りと味の甘さをどう動かすかも、実験で追われている。A品荒茶を茶温90〜120℃・ 時間10〜40分の組み合わせで火入れした試験では、90℃10分で香気評価4・火香0・焦げ臭0・味の甘さ0 だったのに対し、120℃40分では香気評価9・火香4・焦げ臭1・味の甘さ3となり、温度と時間が上がるほど 火香・焦げ臭が強まった。
範囲: A品荒茶(高知県産、蒸し時間50秒)。
注記: 浸出液は茶葉4g・湯温80℃・湯量140ml・浸出80秒で調製し試飲。香気評価は熱湯140mlに浸した茶葉4gの香りを官能で評価。評価者数の記載はない。
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process-tea-hiire —has_sensory_response→ "コリンズ焙煎機を改造した小型回転ドラム式火入れ機(茶温制御可能)を用い、A品荒茶を茶温90・100・110・120℃、時間10・20・30・40分の組み合わせで火入れし、香気(9段階評価、5が良好)と浸出液(火香0-4、焦げ臭0-1、香りの甘さ0-3、味の甘さ0-3)を評価した(2020年)。90℃10分では香気評価4、火香0、焦げ臭0、香りの甘さ0、味の甘さ0だったのに対し、120℃40分では香気評価9、火香4、焦げ臭1、香りの甘さ2、味の甘さ3となり、温度・時間が上がるほど火香・焦げ臭が強まった。"後発酵で消えるもの——碁石茶・阿波晩茶・プーアル
後発酵を経た茶では、渋味に関わるカテキン類が際立って少なくなる例が報告されている。碁石茶の熱水抽出物の HPLC分析では、主要カテキン類及び没食子酸の合計量が緑茶と比べて約1/7、ウーロン茶・紅茶と比べても 約半分だったと報告されている。
範囲: 碁石茶を含む各種茶の熱水抽出物比較
注記: 受田(2015)による記載で、原著は森山洋憲・片山泰幸・中林錦一・受田浩之・沢村正義、食科工49, 679(2002)とされる。一次資料(2002年論文)そのものは今回未確認のため孫引きとして収載する。
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ingredient-goishi-cha —has_composition→ "熱水抽出物のHPLC分析で、碁石茶に含まれる主要カテキン類及び没食子酸の合計量は緑茶と比べて約1/7、ウーロン茶・紅茶と比べても約半分と、他のお茶と比較して極端に低かったと報告されている。カテキン類はお茶の渋みに関わる成分であることから、発酵過程でカテキン類が減少した碁石茶は渋みがマイルドであるとされる。"味覚センサーによる測定でも、後発酵茶の渋味は低く出る。味覚センサーで比べると、阿波晩茶は煎茶・紅茶より渋味刺激とうま味が弱く、酸味だけが石鎚黒茶に迫る高さを示した。
範囲: 阿波晩茶・石鎚黒茶・煎茶・紅茶の浸出液比較(徳島県立工業技術センター、味覚センサーSA402B)
注記: 単一試料間の比較で、反復数・統計検定の記載はない。
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ingredient-awa-bancha —has_sensory_attribute→ "味覚センサー(SA402B)による浸出液測定で、阿波晩茶は煎茶や紅茶と比べて渋味刺激やうま味の出力値が低かった。酸味の出力値は石鎚黒茶に次いで高かった。これらの結果から、阿波晩茶は酸味のあるスッキリとした味わいであることが示されたと報告されている。"茶葉の分析でも数字は同じ方向を向く。タンニン含量は阿波晩茶8.1g/100g・石鎚黒茶7.5g/100g・ 煎茶11.4g/100g・紅茶6.5g/100g、カフェイン含量は阿波晩茶1.5g/100g・石鎚黒茶1.4g/100g・ 煎茶2.1g/100g・紅茶3.0g/100gと報告されており、阿波晩茶と石鎚黒茶は煎茶・紅茶より少なかった。
範囲: 阿波晩茶・石鎚黒茶(いずれも後発酵茶)、煎茶(不発酵茶)、紅茶(発酵茶)の茶葉分析
注記: 徳島県立工業技術センターの全文(表2)を確認して収載。試料数・産地ロットの詳細記載はない。
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ingredient-awa-bancha —has_composition→ "食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)準拠の分析で、タンニン含量は阿波晩茶8.1g/100g、石鎚黒茶7.5g/100g、煎茶11.4g/100g、紅茶6.5g/100gであり、カフェイン含量は阿波晩茶1.5g/100g、石鎚黒茶1.4g/100g、煎茶2.1g/100g、紅茶3.0g/100gだった。阿波晩茶は煎茶と比べてタンパク質・カフェイン・タンニンが少なく、紅茶と比べてタンパク質・カフェインが少なかった。"堆積発酵させるプーアル茶でも、同じ方向の変化が観察されている。古樹由来の日晒青毛茶を36日発酵させた 時系列では、発酵終点で原料よりも苦味と渋味がともに低かったと報告されている。
範囲: 古樹由来日晒青毛茶の一つの36日発酵時系列
注記: RMとF4の比較。一発酵系の時系列であり、発酵一般の因果効果や効果量ではない。
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process-tea-pile-fermentation —was_observed_with→ "36日終点で原料より低い苦味と渋味"回甘という時間軸
回甘は、中国茶の品飲で語られる感覚の名前である。口に含んだ直後にわずかな苦味・渋味を感じたあと、 時間の経過とともに甘味が優勢になり、最終的に甘い後味で終わる感覚として、茶文化のメディア記事で 繰り返し説明されている。
範囲: 中国語圏の茶文化メディア記事で繰り返し紹介される説明
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concept-huigan —is_defined_as→ "中国茶の品飲で、入口時にわずかな苦味・渋味を感じた後、時間の経過とともに甘味が優勢になり、最終的に甘い後味で終わる感覚"甘さが遅れてやってくる理由には、複数の説明が提案されている。よく紹介される一つは、唾液のタンパク質と茶のポリフェノールが口の中で一度結びつき、それがほどけるときに甘さと潤いが感じられる、という順序の仮説が提案されている。
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concept-huigan —has_currently_proposed_mechanisms→ "茶ポリフェノールが唾液タンパク質と結合して口腔内に膜を作り収斂・苦渋味として知覚され、膜が破れると口腔筋が弛緩して回甘・生津を感じる、とする説(渋感転化説)"ただし、苦味と渋味が退いて甘さが立ち上がるまでの経過を連続的に測った研究は、まだ見当たらない。回甘を人で測った研究の多くは、飲み込んだあとの一時点で強さを付けるにとどまり、時間強度法(TI)やTDSの ように連続する時間曲線として測った例は、茶を対象にしたものが確認できていない。葉・湯・火のどこで 苦味と渋味が動くかは主張として束ねられても、その先で甘さがどう立ち上がるかは、まだ曲線になっていない。
注記: Chong et al.(2019, 2022)はいずれも固定時点(嚥下10秒後)での単一強度評点法。苦味単独のTI測定例(テアシネンシンA)はあるが甘味・回甘への接続は無い。TDSを用いた茶の回甘研究は検索範囲内では発見できず、この研究所の空白として記録する。
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concept-huigan —has_methodological_limitation→ "回甘のヒト官能研究の多くは嚥下後10秒などの単一時点での強度評点にとどまり、時間強度法(TI)やTDSによる連続的な時間曲線としての測定は、茶を対象にした例は確認できていない"よく問われること
緑茶の苦味はカフェインの味か、それともカテキンの味か
ここまで測られている範囲では、カテキン類のほうを主要な担い手とする報告が中心である。緑茶浸出液を対象にした研究では、苦味が没食子型カテキンの濃度と高く相関した。受容体を使った独立の実験でも、ガロイル基を持つカテキンへの応答が、持たないカテキンよりはるかに強く、ヒトの官能研究で見られる強度の順序と類似すると報告されている。カフェインそのものが緑茶の苦味にどれだけ寄与するかを、カテキン類と同じ手法で切り分けて測った研究には、たどり着けていない。うま味成分のテアニンは逆に苦味受容体の一つを妨げるという報告があり、苦味は単一の成分ではなく複数の成分の綱引きとして測られている。
紅茶の渋みも緑茶と同じ成分が原因か
同じではない、という結果が出ている。緑茶浸出液ではカテキン類とフラボノール配糖体が渋味と高く相関するという報告がある一方、紅茶を対象にした味覚希釈研究では、カテキン類でもテアフラビン類でもなく、別の一群が渋味の主要な寄与体として同定された。二つの研究は茶の種類と方法の両方が違うため、この不一致がどちらに起因するかは切り分けられない。渋みはカテキンのせいという説明が紅茶にそのまま当てはまるところまでは、確かめられていない。
抹茶や玉露はなぜ苦渋味が穏やかだと言われるのか
覆下栽培による成分の変化が背景として測られている。遮光によって新芽のカフェインは増える一方、カテキン類は減るという整理があり、この二つは別の項目として扱われている。さらに詳しく見ると、覆いで減るのは苦渋味の弱いエピガロカテキンであり、苦渋味の強いエピガロカテキンガレートの含量はほとんど減らないという報告もある。つまり覆うと穏やかになるという説明は、カテキン全体が均等に減るからではなく、弱い方だけが選択的に減るからだ、という形でここまで測られている。
回甘とは何か、確かめられているのか
回甘は、口に含んだ直後の苦味・渋味のあとに甘さが遅れて立ち上がる感覚を指す言葉で、中国茶の品飲の文脈で繰り返し説明されている。唾液のタンパク質と茶のポリフェノールが口の中で結びついて膜を作り、それがほどけるときに甘さと潤いを感じる、という順序の仮説も紹介されている。ただしこの膜の形成と破裂そのものを直接観察した実証研究には、たどり着けていない。回甘をヒトの官能で測った研究の多くは飲み込んだ一時点での評点にとどまり、連続する時間曲線として茶の回甘を測った例は確認できていない。仮説の段階にとどまる。
分かっていないこと
- カフェインが緑茶・紅茶それぞれの苦味に占める寄与の大きさを、カテキン類と同じ手法で直接切り分けて測った研究は見つかっていない。
- 紅茶の渋味における主要寄与体が、緑茶の渋味にも同じように働くかどうかは、対象茶をまたいで直接比較した研究がなく、確かめられていない。
- 回甘が甘さへ転じる仕組みは、口腔内での直接観察による裏付けがまだなく、時間経過を連続して追った測定も茶では見当たらない。
- 後発酵茶で渋味が下がる理由は複数報告されているが、発酵条件と減少量の関係を直接対応づけた研究は確認できなかった。
図鑑で読む
- 緑茶浸出液 — カテキン類とEGCGの濃度が苦味と結びつく基準の茶
- 茶カテキン/EGCG — 渋味・苦味の担い手として扱われる化合物群
- L-テアニン — 苦味受容体に拮抗しうるうま味成分
- 碾茶/抹茶/玉露 — 覆下栽培がカテキン・アミノ酸の組成を動かす茶
- 鉄観音の浸出液 — 茶水比・湯温・浸出時間・抽出回数で苦渋味が動く例
- ほうじ茶の焙煎/火入れ — 焙煎の程度・温度・時間がカテキン・カフェイン・香気を作り替える工程
- 碁石茶/阿波晩茶/プーアル茶の堆積発酵 — 後発酵でカテキン類が減る茶
- 回甘 — 苦味・渋味のあとに甘さが遅れて立ち上がる、時間軸で語られる感覚
この主題の図鑑項目(40)
この主題に属する図鑑の項目を、区分ごとにすべて並べています。
食材阿波晩茶・玉露・苦丁茶・碁石茶・濃茶・熟成プーアル茶・鉄観音・碾茶・抹茶・マテ茶・涼茶・緑茶(浸出液)
料理テレレ
生物クーディンチャ・マテチャノキ・小葉苦丁茶の原植物(イボタノキ属)・タラヨウ
化合物L-テアニン・エピカテキンガレート(ECg)・エピガロカテキン・エピガロカテキンガレート(EGCG)・カフェイン
化合物群茶カテキン類・フラバン-3-オール類・フラボノール配糖体
感覚渋味
加工・条件石臼挽き・石鎚黒茶の二段発酵・覆下栽培・浸出時間・茶葉の堆積発酵・ほうじ茶の焙煎・阿波晩茶の一段階乳酸発酵・碁石茶の二段階発酵・火入れ・複数口の反復摂取
研究ノートで深める
- 回甘——苦味のあとに甘さが来る茶の時間 — 回甘・生津・喉韵という語彙と、甘さの説明として提案されている複数の仮説を追う
- 阿波晩茶・碁石茶・石鎚黒茶——後発酵の日本茶 — 三つの後発酵茶の工程の違いと、味覚センサーが映す渋味・酸味をプーアル茶と比べる
- 苦丁茶と涼茶——「苦い」を等級で語る飲み物 — 茶と呼ばれながら系統の異なる植物に由来する苦味の飲みものを扱う
- 焙煎は苦味を作り、深煎りは苦味を変える — 焙煎という工程がコーヒーとほうじ茶の苦味に何をしているかを横断する
出典台帳
ここに載せた主張の一次情報と限界は、それぞれのカード内の出典リンクから確認できる。全体の一覧は出典台帳にまとめている。
この頁の引用のしかた
青木大(NIGAMI LAB)(2026). 茶の苦味と渋味 — 担うのはカテキンかカフェインか. https://nigamilab.com/topics/tea-bitterness/
主張ごとの固定リンクは各カードの #clm-… です。データは CC BY 4.0、配布は データを使う。 データセットの DOI: 10.5281/zenodo.22739101